田舎泥棒の末路 [2:0:1]
0:とある山間の村。今夜は人口の少ないその村のお祭りである。
0:山の中腹にある木造の民家に、怪しい男が二人、近づいてくる。
0:日はすでに傾き始めて、遠くの神社から微かにお祭りばやしが聞こえている。
男1:はじまってるな
男2:うん、丁度だったね
男1:今が5時だから、大体リミットは3時間くらいか
男2:何件回れるかな
男1:馬鹿、回れるだけ回るんだよ。とにかくかたっぱしから入って、もらえるだけ貰うんだ。お前、わかってるよな?
男2:わかってるよ、点検だろ。
男1:そうだ。とにかくバレたらヤバイ。万が一見つかって、何か聞かれたら「私たち点検に来たんです。」それだけでいい。
男2:点検に来たんです
男1:そうだ。それ以上は喋るんじゃねえぞ。お前はバカなんだから、喋れば喋るほどボロが出る。いいか?何を聞かれても―
男2:点検に来ました、だろ、しつこいな兄ちゃんは
男1:しつこいぐらいじゃないとお前は覚えないだろうが
男2:大丈夫だって・・・「点検に来ました」
男2:・・・これくらい言えるよ
男1:点検?なんの点検ですか?
男2:えっと、お、おたくの冷蔵庫が、壊れて、中の、中の魚とかが腐ったりしてないかって
男1:コノヤロウ
男2:いってーな!ぶつことないだろ!
男1:しっ!でけえ声出すんじゃねーよ
男1:いいか?点検ってこと以外は言うなよ?それ以外はしゃべるんじゃないぞ
男2:わかったよぉ
男1:相手が筋が通らねえ事いって来たときは、俺がしゃべるから、お前は黙ってろ
男2:わかった
男1:ま、とはいえ今夜は祭りだ。人に会う事なんてないだろうけどな。
男2:じゃあこんな練習しなくてよかったじゃねえか
男1:馬鹿、念には念を入れんだよ。教習所で習っただろ?かもしれない運転ってよ
男2:習ってないよ
男1:ああ、お前免許持ってねーもんな
男2:にーちゃんだって持ってないだろ!
男1:俺は持ってなくても運転できるからいいんだ!
男2:・・・にーちゃんの方がうるさいじゃないか
男1:こまけえな
男2:あっ
男1:ん?
男2:あれ、みて、兄ちゃん。
男1:お、第一民家、発見だな
男2:やる?
男1:あたりめーだろ。
男2:よし・・・
男1:手順は分かってるな
男2:わかってるよ、最初は財布だろ
男1:そうだ。財布、通帳、金目のもんだ。
男2:どれもなかったら?
男1:5分以上かかるようなら次にいく
男2:おっけー
男1:行くぞ。
男2:うん・・・
0:男1、チャイムを鳴らす。が、中から返事はない。
男1:すみませーん。
男1:ニコニコ電気でーす。点検に参りましたー。
0:間
男1:・・・
男2:誰も出ないね
男1:(正面玄関から中に入りながら)ま、祭りの日だからな
男2:えっ
男1:・・・どうした?
男2:前から入るの
男1:なんだって?
男2:え、正面から入るのって。いつも裏からなのに。
男1:あ?正面に決まってんだろ。
男2:なんで?
男1:俺らは何もんだ?
男2:泥棒
男1:こらっ
男2:いてぇえ!なにすんだ!
男1:・・・(わざとらしく)あれぇー?あなたここに何しに来たんですかぁ?
男2:・・・?
男1:わたしの家で、あなたは、なにをしてるん、で、す、か!
男2:!!!
男2:点検です!点検点検点検!
男1:そうだ、俺らは電気の点検に来たんだ。
男2:そうか!そしたら裏口から入ったら変だよな!まるでドロボーみたいじゃねーか
男1:そうだ。だから、表から、堂々といく
男2:そういう事かあ・・・やっぱ兄ちゃん頭いいな
男1:ふん。お前が頭悪すぎるんだよ。バーカ。
男2:あー!またそういうこという!言っとくけど俺はね、にーちゃんの事、ほんとに頭いいとはこれーっぽっちも思って―
0:と、男2の言葉を無視して男1が玄関に手をかけると、引き戸がすんなりと開く。
男1:あれ?
男2:ん?どうしたんだよ
男1:開いたよ
男2:あら、ほんとだ
男1:こりゃあこの村ちょろいかもな。不用心にもほどがある。さ、入るぞ。
男2:点検に来ましたぁー!
男1:うるせえ!玄関ちゃんと閉めろよ!
男2:あーい
0:男2、後ろ手に玄関の引き戸を占める。
男1:さてと・・・まずは、財布だ
男2:おっ、財布だな、えっと、財布財布
男1:おいマサ。
男2:あ?
男1:やたらに触るんじゃねえぞ。なるべく荒らさねえように探すんだ。
男2:荒らしたらだめなのか
男1:たりめえだよ。少しでも騒ぎになるのを遅らすんだ。こういう細かい気遣いが一番大事なんだよ。
男2:ふーん、そういうもんかねえ
男1:時間もあるからお前に少しだけ、コツを教えてやる
男2:へ?コツって?
男1:物探しの極意ってやつだよ。探す順番、もういっぺん言ってみろ。
男2:えっと、財布、通信簿、金目のもんだろ?
男1:馬鹿、通信簿じゃねえ。家主の成績調べてどうすんだよ。二つ目は通帳だ。
男2:ああ、通帳か
男1:そうだ。財布、通帳、最後に金目の物。
男1:最初の財布。これは目につく場所に置いてあることが多い。ただし空き巣の場合は十中八九見つからない。なぜなら家主は外だから、大体が外に持っていかれちまってる。
男2:はあ、なるほどなあ
男1:特に今日は祭りの日だ。子供や孫に小遣いをあげるために、持ってかれちまってるのさ。
男2:はぁ・・・
男1:だからな、探すには探すんだが、この財布はパパ―っと目につくところを見るだけでいい。
男2:兄ちゃん
男1:目につくところにおいて無けりゃ、もうその家に財布はねえってことだ
男2:兄ちゃん
男1:次に通帳。
男2:兄ちゃん!
男1:ああ!?
男2:あったぞ・・・財布
男1:あ?
男2:おいてあるよ、そこ、土間のとこ
男1:・・・ほんとだ
0:間
男2:(小声で)なあ、兄ちゃん、まだ家の人いるんじゃないの?ここ
男1:・・・待ってろ、確認してくる
0:男1、靴を脱いで土間に上がって家をぐるっと巡回して戻ってくる。
男1:大丈夫だ、誰もいねえ
男2:よかったああ・・・
男1:そもそも最初に声かけた時に返事なかったしな
男2:じゃあこの財布、誰のだ?
男1:開けてみろ、免許とか保険証とか入ってんだろ。
男2:あ、ああ
0:男2、中身を空ける。
男2:えっ・・・これ
男1:あ?
男2:兄ちゃん、すげーよこれ、こいつ金持ちだ
男1:ああ?なんだよ?
男2:1、10、100、1000、万、十万・・・十万円も持ってるぞこいつ!財布に!
男1:はぁ!?んな馬鹿な・・・見せろ
0:男1、財布を奪い取って中を確認する。と、途端にあきれ顔になる。
男1:マサ
男2:なに?
男1:いいか・・・1万円、2万円、3万円・・・4、5、6万円。
男1:これは、6万円だ。
男2:ああ?どういうことだ?1、10、100、1000、万、十万・・・十万円じゃねえか
男1:・・・いい、めんどくさい。とりあえず10万円ゲットだな
男2:うん、幸先いいねえ
男1:ああ、悪くねえ・・・霧崎 一(キリサキ ハジメ)、作業員、54歳、か。現場監督してんのか。大したもんだな。
男2:にーちゃん何見てんの?
男1:ああ?ああ、免許証だ。
男2:え!免許証!?見たい見たい
男1:おもしろいもんじゃねーぞ
男2:なになに、へえ、現場監督なんだこいつ。どーりで10万円ももってるもんだ。
男1:6万な。普通だよ。
男2:ふつうなもんか!俺の稼ぎいくらだか知ってんのかよ
男1:2万円
男2:安すぎなんだよ・・・って雇い主兄ちゃんじゃないか!おーかーねーかーえーしーてーよー
男1:うるせえなあ。仕事が終わったらお前に分け前やるから。
男2:ぜったいだからな
男1:わかったから他探すんだよ、早くしないと祭りがおわっちまう
男2:わかったよ。次は通帳だな。よし。
男1:物動かしたらもとに戻すんだぞー
男2:わかってるって
男1:それにしてもしみったれてんな。なんだこの時計・・・カシ、ス。
男1:パチモンじゃねーか!
0:男2がタンスの引き出しを開ける。
男2:ん?
男1:なんだーなんか見つけたのかー
男2:財布だ
男1:なんだと?
男2:見てよ、今度は女物だ
男1:おお、開けろ開けろ
男2:うん・・・
男1:えっ
男2:イチ、ジュウ、ヒャク、セン、マン・・・ジュウマン・・・
男1:貸せっ
0:男1、金を数える
男1:21、22、23・・・すげえ、大金だ
男2:23万?
男1:ああ、23万だ
男2:金持ちじゃねーか!
男1:でかしたマサ!これだけありゃあ黒字だ、ずらかるぞ!いいかマサ、動かしたもんは全部元どーりにするんだ、この財布も元のところ戻しとけ、足跡残ってるところは拭いて帰れよ、とにかく―
男2:兄ちゃん
男1:あ?
男2:兄ちゃんちょっと、来てよ
男1:なんだよ!たらたらすんなよ、ずらかるぞ!
男2:財布だ
男1:なんだって?
男2:財布だよ、ほら、また財布がある
男1:・・・財布だな
男2:それにほら、この棚のなか、通帳とか、ネックレスとか、全部入ってるよ
男1:うそだろ?
男2:財布、中身も全部入ってる
0:間
男2:大金持ちだぞ!兄ちゃん!
男1:すごいな!全部取ってくぞ!ほら、こんなか入れろ!
男2:ああ、わかった・・・あーどうしよう手が震える
男1:情けねえな、貸せ。俺が渡すから、お前はその中に詰め込んでいくんだ
男2:うん、わかった。
男1:はい財布
男2:財布、一丁(中を開ける)
男1:はい財布
男2:すげえ、こっちにもいっぱいお札入ってるよ
男1:マサ!いちいち確認しなくていいんだよ。とにかく全部突っ込むんだ
男2:あ、ああごめん、財布
男1:はい財布
男2:財布
男1:財布
男2:財布
男1:ネックレス
男2:ネックレス
男1:時計・・・ってこれ、ロレックスじゃねえか
男2:ロレ・・・?
男1:高級なヤツだよ。まあ本物かはわかんねえけどな
男2:売ったら高い?
男1:ああ、めちゃくちゃ高値が付くぞ
男2:3万円くらい?
男1:馬鹿か。口より手を動かすんだよ
男2:兄ちゃんが先にしゃべったんじゃないか
男1:はい通帳
男2:通帳
男1:はい通帳
男2:通帳
男1:はい通帳
男2:通帳
男1:・・・通帳
男2:通帳
男1:・・・・・・通帳
男2:通帳
男1:・・・
男2:つう・・・どうしたの兄ちゃん
男1:・・・おかしい
男2:え?
男1:おかしいな・・・
男2:なにがだよ
男1:マサ、渡した通帳、いくつか見せてくれ
男2:時間ないんじゃないの・・・?
男1:いいから!
0:男2、しぶしぶ男1に通帳をいくつか渡す。男1はまじまじとその通帳を確認する。
男1:・・・おいマサ、ここの家主、なんて名前だった?
男2:えっと、確か、霧崎なんとかって書いてあったな
男1:だよな・・・
男2:それがなんなんだよ
男1:・・・違う
男2:え?
男1:違う、これも、これも違う
男2:なんだよ。何が違うんだ?
男1:名前だよ・・・
男2:名前?
男1:ここの家主、霧崎だったろ?
男2:うん、確かな
男1:でも、この通帳。トオガサ、ハマイエ、ナガタ、フジシロ、カサイ・・・
男2:スズナ、スズシロ、これぞ七草ってか
男1:・・・
男2:兄ちゃん大丈夫か?
男1:まだわかんねえのか!
男2:びっくりした、そんな怒鳴るなよ
男1:おかしいだろ。なんでこんないろんなヤツの通帳があるんだ?
男2:そりゃあ、いっぱい口座もってるかもしんないし、家族のかもしれないだろ
男1:なんで苗字が違うんだよ・・・
男2:苗字?
男1:トオガサ、ハマイエ、ナガタ。マサ、ここの家主なんてった?
男2:そりゃもう何度も言ってるだろ、霧崎だって・・・あ。
男1:考えてみればさっきの時計やらなにやらもそうだ。男物もあれば女ものもあった。財布も全然デザインが違った。
男2:・・・。
男1:この家・・・なんかおかしいぞ。
0:家の外。遠くの方からお祭りばやしが聞こえる。
男1:マサ・・・
男2:ん?
男1:ちょっと気になったんだけど、さっきから変なにおいしねえか?
男2:におい?
男1:・・・
男2:する。くせえな。兄ちゃん屁したか?
男1:してねえよ。
男2:なんだ、この匂い。見たところ、冷蔵庫もなさそうだし、台所もきれいだしな。
男1:マサ、逃げるぞ
男2:まあまだ、お祭りもやってるし、焦んなくても大丈夫だろ
男1:マサ!急げ、早く、金持ってずらかるんだよ!
男2:そんなあわてんなって、もしかしたらもっとすごいおたからがあったりして、ここかなー、ここかなー
男1:マサ!むやみに戸棚をあけんなって!
男2:ここか・・・なっ!
0:間。家の外から、花火の爆発音が響いている。
男2:ひっ・・・兄ちゃん
男1:閉めろ、逃げるぞマサ
男2:だ、ダメだ、腰が抜けた
男1:ったく、そんなこと言ってる場合じゃねえ!早く立て!
男2:わ、わかった、ちょっと、手貸してくれって
男1:くそ、やばいやばいやばい、早く、早くするんだよ
男2:早くったって、待ってな、今立つから、よし、収まってきた。大丈夫、大丈夫
0:男2が深呼吸をしていると、ガラリと玄関の引き戸が開く。
家主:なにしてるんですか
0:場が凍り付く。玄関の方を二人が見ると、40代くらいの作業着を着た男性が立っている。
男2:(絞り出すような声で)電気の、点検に来たものです。
:
:
0:時間が経過する。場面は変わって土間のいろりの所。男1と男2、家主が枝豆をつまみにビールを飲んでいる。男1と男2はどこか気まずそうである。
:
:
家主:あっはっは、まあこの辺は夜になると本当に暗いですからね。地元の人間も山の方に来ると迷うことがある。
男1:あ、そうなんですね
家主:そうなんですよ。普通の道だけだったらいいんですけどね、大体一本道ですから。しかしこの辺りはイノシシやシカがいますから、獣道がひょいと現れたりする。
男1:はぁ
家主:そうなるともうわからない。ここの道だったっけと進んでみると行き止まりで、戻ろうとするとまた別の道に突き当たる。
家主:そういうとき、どうするか知ってますか?
男1:さあ・・・切り株を見る?
家主:ああ、切り株ね。はいはい。
家主:切り株があればまあそれもいいでしょうけど、このあたりの樹木は伐採するような代物じゃあありませんからね。多分見つからないでしょうね。
男1:じゃあどうすればいいんです?
家主:簡単ですよ、朝を待てばいいんです。
男1:朝を?
家主:ええ、朝になれば、見通しが良くなりますからね。大通りは大方舗装されてますし、山から村だって見える。
家主:村の方向に歩いていけば、人に会えます。
男1:なるほど
家主:うちの村の人は親切ですからね、人に会えれば、車かなんかで、送っていってくれるでしょう。
男1:それは気が引けますね
家主:どうして?
男1:電気会社の人間が、お客様に送ってもらったと知られたら、上司になんて言われるか
家主:まあ、それもそうか。でもほら、緊急事態だし。それでも怒られちゃうんですか?
男1:ええ、まあ、なるべくは
家主:そうですか・・・
家主:ま、村の人間はいつでも頼ってもらって結構ですからね
家主:私、こう見えて自警団の団長なんですよ
男1:へえ、自警団
家主:はい。だから村の人間には口がきくし、時間もありますから。
男1:はぁ・・・
家主:ところで、そちらの方は大丈夫ですか?
男1:え?ああ、こいつですか
家主:さっきからなーんにもしゃべりませんが・・・枝豆お嫌いでしたかな?
男2:・・・私は、点検に来ました、電気の
家主:はあ、それはさっき伺いましたよ
0:男1、男2を叩く。
男2:いてっ!なにすんだよ!
男1:なにするんですか、だろ。先輩には敬語を使いなさい。お客様の前なんだから。
男2:ごめんなさい・・・
家主:はっはっは、ちゃんと教育されてるんですな。まあでも、今夜はせっかくなんだ、無礼講と行きましょうよ。
男1:いえいえ、そうはいきませんよ。
家主:まあ、とにかくゆっくりとしていってください。狭い家ですが、布団はいくつかありますから。
男1:いえほんと、大丈夫です
家主:まあ遠慮せず。私もね、祭りで村の連中と飲んだ後、静かになってさみしいと思ってたところなんで、丁度良かった
男1:はあ・・・しかし、私達もまだ仕事中なので、あまり長居はできなくて。な?
男2:(大きく頷く)
男1:なので、そろそろ、私達もお暇しようかと
家主:ええ?そうなんですか?
男1:はい、ほんと、ごちそうになっちゃってすみません
家主:いえいえ、そんな大層なもんじゃないですよ
男2:ごちそうさまでした
男1:そうだな、えらいな、挨拶ができて
家主:ははは、仲がよろしいんですな
男1:そんなそんな、憎い後輩ですよー
男2:そうですよこんなやつ、憎い先輩ですよー
男1:こらっ
男2:いてえ!
家主:漫才を見ているようですな
男1:いえいえ、すみません、なんか騒がしくしちゃって
家主:いいえ、こちらこそ、引き留めちゃってすみませんね
男1:それじゃあ、ほんと、お世話になりました。
男2:お世話になりました。
家主:はいはい、またいらしてくださいね
男1:はい、では、失礼します
0:二人、引き戸を開けて、外へ出ていこうとする。
家主:あ、そうだ
男1:・・・はい?
家主:電気、どうだったんですか?
男1:電気?
家主:点検だったんでしょう?電気の
男1:・・・はい
男2:点検させていただきました
家主:はい
男1:問題は、ありませんでした
家主:あ、そうですか
男1:はい、いろいろ見ましたが、問題ありませんでした
家主:おお、それはよかった
男1:はい、引き続き、弊社をよろしくお願いいたします
男2:よろしくお願いいたします。
家主:ええ
男1:それでは、失礼して
家主:あれ・・・?でもおかしいな。
男1:・・・なんですか?
家主:うち、電気使ってましたっけ?
男1:・・・はい?
家主:いや、うちね、自家発電してるじゃないですか。ここまで田舎になると、電気を引くと逆に高くついちゃいましてね。
男1:はい・・・
家主:ガソリンで、発電してるんですよ。音してたでしょう?
男1:はい、立派な、発電機でしたよね
男2:立派でした・・・
家主:ええ。ということは、御社の電気はうち、使ってませんよね
男1:そうですね、送電は、してないですね
家主:ああ、よかった。請求も来ないのに電気だけ使ってるなんて、御社に不利益ですもんね。
男1:え、ええ・・・ご心配、ありがとうございます。
家主:いえいえ・・・ん?
男1:・・・まだなにか?
家主:いえ、そうなると、何を点検したのかなあと思いまして。
男1:はいい?
家主:いえね、あなた方、最初に電気の点検に来たといったでしょう?
男1:いいましたね
男2:いいました
家主:ですよね。でもうちは電気使ってないから・・・なんの点検をしていただいたんですか?
男1:・・・
家主:あなた方、本当に電気屋さんなんですか・・・?
男2:・・・!
男1:か・・・
家主:か?
男1:家電製品のね、点検に、来たんです。
家主:家電製品?
男1:は、はい。最近ね、うちの販売している家電から火が出ましてね、同じ型番の製品を回収して回ってるんですよ
家主:はあ、なるほど
男1:いやあ、本当に申し訳ない話ですが、でもご安心ください、問題の家電はありませんでした。な?
男2:え、ええ。そもそも霧崎さんのお宅には家電があまりおいてなかったので、大丈夫でした。
家主:そうでしたか、それはよかった
男2:はい、ご安心ください。
男1:それでは、もうほんと、社長に怒られちゃいますんで
家主:・・・電気屋さん
男1:・・・はい
家主:最後に一つだけいいですか?
男1:・・・どうぞ?
家主:なんで私の名前、知ってるんですか。
男1:・・・はい?
家主:先ほど、そちらの方が、私の事、霧崎さんって。名乗りましたっけ?私
男1:ああ、霧崎さんってね、こいつがね
家主:はい、多分私、言ってないですよね、名前。なんでご存じなんですかね?
男1:なんで・・・なんですかねえ?
家主:え?
男1:おいお前、なんでこの方のお名前を知ってるんだよ
男2:え、ええ・・・それは・・・
家主:(じっと男2を見つめる)
男2:聞いたんですよ
家主:・・・だれに?
男2:えっと、えっと・・・ナガタ、さん?
家主:ナガタさん?
男2:そそ、そうです、いるでしょ?この村に、ナガタさんって
家主:・・・
男2:ここに来る前に、永田さんの家に寄ったんです。それで、そこでね、自警団の団長さん、霧崎さんのお宅の事聞きまして
家主:・・・
0:緊迫の間
家主:なーんだ、そうでしたか!
男1:えっ
家主:永田さんの所にね!それでうちの事を。はっはっは!
男1:あ、はい、はいそうなんですよー!
家主:面白い方だったでしょう!ナガタさん!
男1:ええ!本当に!ユニークな方で!なあ!
男2:え、ええ!それはもう本当に、とってもお優しい方でした!
家主:そうでしょうそうでしょう!
男1:ええー!本当に!とってもいい方だったのでまたご一緒したいです!なあ!
男2:ハイ!ぜひ!今度お詫びに来ますので、またごゆっくりお話したいです!
家主:いやあ、ナガタさんねえ、本当にあの方とは仲が良かったんですよ
男1:いやあ、霧崎さんも良い方なので、ぜひ今度僕ら4人でご一緒に・・・え?
家主:丁度いいじゃないですか、永田さん丁度今うちにいるんで、これから一緒に飲みましょうよ
0:間
家主:4人で
男2:いやあああああああああああ!
:
0:男1と男2が扉の内側に引っ張り込まれ、引き戸がぴしゃりと閉まる
0:暗転。田舎の虫の声だけが静かに聞こえる。
0:完
:
0コメント