夢見る職業安定所【1:1:0】
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0:とある職業安定所。がやがやとした声ともつかない話し声が事務的な室内に響いている。
0:と、そこにスーツ姿の遠藤があたりを見回しながら登場する。
遠藤:あのう・・・
0:林田は最初気づかず、手元の電卓に目を落としている
遠藤:あ・・・
遠藤:あのう・・・?
林田:あっ、ハイ!
遠藤:あの、えっと下で、受付こっちって言われて、それで
林田:あ、閲覧ですか?
遠藤:え、閲覧・・・?
林田:ああ、すみません
林田:えっと、お仕事お探しですかね?
遠藤:あ、はい、そうです、仕事、はい、探してます
林田:はい、そしたらいったん受付しますんで、あ、これお名刺ね
遠藤:林田さん・・・?
林田:はい、林田です
遠藤:よろしくお願いします
林田:はい、よろしくお願いします
林田:それじゃ、とりあえずそちらお座りください
遠藤:はぁ
0:遠藤、座る
林田:ええと、そしたらこちら、書類になりますんで、とりあえずこの太枠の中埋めてくださいね
遠藤:はい
林田:はーい
0:間
遠藤:あのぉ・・・
林田:はい?
遠藤:なにか、書くもの・・・
林田:あ、すみません、そしたらこれ、使ってください
遠藤:あっ、どうも、ありがとうございます
林田:はーい
0:名前とかを記載していく遠藤
林田:えっと、遠藤さん
遠藤:はい・・・ここは?
林田:固定番号・・・あります?
遠藤:いやわたし、普段携帯で、家にもその・・・
林田:あ、なら空欄で大丈夫ですよー
遠藤:はぁ・・・
0:間
林田:書けました?
遠藤:はい、一応
林田:はーい、じゃあもらっちゃいますね
遠藤:はい
林田:はいはい、そしたら遠藤さん
遠藤:あのぉ・・・
林田:はい?
遠藤:ボールペン
林田:ああ、ボールペンね、もらっちゃいますね
遠藤:はい
林田:おっけーです
0:少しの間
林田:はい、それじゃ、最初履歴書、出してもらうんですけど、持ってきてますか?
遠藤:持ってます
林田:はーい
遠藤:これ、一応
林田:はいはい、遠藤さんね、へぇ、辻崎(つじさき)学園
遠藤:ええ、まぁ・・・
林田:すごいじゃないですか、偏差値高いでしょあそこ
遠藤:いやぁ、まぁ、はい
林田:はいはい・・・わかりました
林田:それじゃあえっと、一応お探しするんですけど、ちなみに遠藤さん、こういうところは初めてですか?
遠藤:え?そ、そうですね、初めてといえば、初めてですね・・・
林田:あーそうですか
遠藤:はい
林田:それじゃあこれ、最初にお渡ししておくんですけど、今日即決しなくても大丈夫ですっていう
遠藤:へ?
林田:いやね
林田:うちだけで決めちゃうと、ほか見たときにもっといいところあったらガッカリでしょ?
遠藤:ああ、なるほど
林田:ええ、だからね
林田:いろいろなところ見て、比べて、ここだ!って思ったところに決めるのがいいので、まぁ、参考までに
遠藤:わかりました
林田:で、最初にエリアなんですけど、どこが希望とかってありますか?
遠藤:エリアですか
林田:はい、ご自宅がえっと・・・栗岡(くりおか)のほうだから・・・藤乃原市(ふじのはらし)とか、あとはまぁ県外とかですかね
遠藤:ああ、いえ、その辺りはあんまりこだわらないので、結構全域な感じでお願いしたいです
林田:はぁはぁ、なるほど、じゃあ一旦全域で調べて、出てきたリストから絞っていきましょっか
遠藤:お願いします
林田:はーい
0:林田がパソコンをいじる間。「えっとー」とか「そしたらー」とかつぶやいている。
林田:はい、お待たせしました
遠藤:はい
林田:えっと、全域となると結構候補出てくるんで・す・け・ど
林田:なにか、ご希望とかってありますか?
遠藤:希望ですか?
林田:ええ、サービス業がいいとか、そういうの
遠藤:あー・・・
林田:ええ、いかがでしょう?
遠藤:うーん、そうだなぁ・・・
遠藤:強いて言うなら・・・
林田:ええ
遠藤:夢のある・・・仕事・・・
林田:へ?
遠藤:夢のある仕事がいいです、はい
林田:えっと、なんですって・・・?
遠藤:え、だから、夢のある仕事が、はい、できれば
林田:夢・・・ですか?
遠藤:あれ?夢のある仕事って言いません?なんかこう、派手で、きらびやかで、みんなが憧れる・・・的な
林田:ああいえいえ、それはわかるんですけど、その、なんというか
遠藤:なんですか?
林田:抽象的過ぎるというか・・・
遠藤:抽象的?
林田:ええ、単に「夢のある仕事」と言っても様々だと思うんですよ
遠藤:はあ・・・
林田:例えばね?動物が大好きな子供がいたとして
遠藤:林田さんお子さんいらっしゃるんですねぇ
林田:例えですよ
遠藤:ああ、例えですか
林田:・・・?
林田:まぁそれで、動物の大好きな人からしてみれば、トリマーとかそういう動物にかかわる仕事は夢のある仕事になるわけじゃないですか
遠藤:はぁ、なるほど
林田:そうそう
林田:サッカーが好きな人はもちろんサッカー選手に憧れるだろうし
林田:車が好きな人は車関係のお仕事が天職だって仰る方が多いです
遠藤:サッカー選手の求人もあるんですか?
林田:ありませんよ・・・例えですって
遠藤:ああ、例えですか
林田:ええ、例えです
遠藤:はい
林田:ですからね?遠藤さんがどういう仕事に憧れてるかによって、「夢のある仕事」は変わってくると思うんですよ
遠藤:うーん
林田:・・・ん?
遠藤:でもなぁ
林田:どうしました?
遠藤:明確に、これって絞ってるわけじゃなくて、夢のある仕事であればなんでもいいっていうか・・・
林田:うーん・・・例えば?
遠藤:はい?
林田:例えばこういう仕事、とかないんですか?
遠藤:例えば、ですか
林田:ただ夢のある仕事って言われてもわかりませんからね
林田:例を出していただければ、一応探せますから
遠藤:なるほど・・・
遠藤:あーでも・・・あるんですよね、例えばこういうやつっていうの
林田:おお、じゃあとりあえずそれくださいよ
遠藤:うーん
林田:ん?
遠藤:それが・・・なんていう職業かわからなくて
林田:職業の、名前がですか?
遠藤:はい・・・
遠藤:「こういう仕事」っていうのはあるんですけど、はたしてそれがなんて名前の仕事なのかがちょっと、わからなくて・・・
林田:はぁー、なるほど
林田:・・・大丈夫ですよ
遠藤:え?
林田:大体の業務内容からも探せますから
遠藤:あ、なんだ、そうなんですか・・・!
林田:ええ、ちょっとお待ちくださいね、
林田:えっと、カテゴリ、「職種」から・・・絞り込みで・・・はいっ
遠藤:はい
林田:じゃあ、とりあえず、どんな職業か、聞かせてもらえますか?調べますんで
遠藤:ああ、はい、よろしくおねがいします。
0:間
遠藤:えーっと
遠藤:なんか、あんまり詳しくないんですけど、えっと
遠藤:なんか、基本的には船に乗ってるイメージがありますね
林田:船、ですか
遠藤:はい、ずっと船に乗ってて、たまに陸に帰ってくる、みたいな
林田:船舶(せんぱく)っと・・・
林田:船舶操縦士・・・あー、観光地とかで、船の運転する人、わかります?
遠藤:ああ、はい、いますよね
林田:ああいうのの募集ならありますけど・・・
遠藤:いやぁ
林田:気に入らないですか?
遠藤:あーいやいや、それも素敵だなって思うんですけど、なんかもっと・・・
林田:もっと?
遠藤:もっと、夢がある感じの・・・
林田:もっと夢がある・・・うーん
遠藤:船に乗ってこう、世界中とかを旅するんですよ
林田:旅、クルージング的な?
遠藤:クルージングって言うと、確かに夢はありますけど、もっとこう、荒っぽい感じというか・・・
林田:荒っぽい・・・?
遠藤:はい・・・こう、船に乗って、いろんな村とかに停泊して・・・
林田:ええ、なんだろう
遠藤:それでなんか、金銀財宝とか、そういうのを略奪しながら・・・
林田:ん?
遠藤:ドクロの旗を掲げて・・・海の荒波に揉まれながら・・・
林田:・・・大砲の音を響かせて・・・?
遠藤:海に捧ぐは己の命・・・
林田:酒と女と宝の地図と、フリントロックのピストルと・・・
遠藤:殺した仇(かたき)の屍(しかばね)を、バウスプリットにくくりつけ
遠藤:(いよいよ威勢よく)進め、我らが!
0:少しの間
林田:・・・海賊?
遠藤:そう!海賊!
林田:おー!
遠藤:かっこいいですよね!海賊!ザ・アウトローって感じで!
林田:わかります!アウトローなんだけど、独自のルールとかがあって!
遠藤:はいはい!海賊の掟ね!昔そういうのに憧れて、海賊ごっことかやったなー!
林田:あー!あるあるー!お祭りで買ってもらった剣とか腰に差して!
遠藤:そうそう!公園の遊具とかを船に見立てて!
林田:あるある!
遠藤:誰が船長をやるかで揉めたりして!
林田:あるある!!
遠藤:そんな海賊にずっと憧れてて!
林田:あるある!
遠藤:だから、大人になった今!その夢をかなえたいんです!
遠藤:ありますか!海賊の仕事!!!
林田:ないですね
遠藤:えっ
林田:ないです
遠藤:いや、でも今「あるある」って・・・
林田:夢はありますけど、雇用はないです
遠藤:な、な、な、なんだってー!
林田:なんで意外そうなんですか、ないですよ、普通に
遠藤:ないですか・・・
林田:ないですね
林田:なんで21世紀の職業安定所に海賊の雇用があると思ったんですか
遠藤:そのあたりの事情に疎くて・・・
林田:はぁ・・・
遠藤:そうかぁ・・・ないのかぁ・・・海賊夢あったんだけどなぁ・・・はぁ・・・
林田:あ、あの・・・
遠藤:あーあ・・・海賊なりたかったなぁ・・・小さいころからの憧れだったのになぁ・・・
林田:あの、遠藤さん
遠藤:海賊の模擬刀とか買ったんだけどなぁ・・・もうあれ返品できないだろうなぁ・・・
林田:遠藤さん!
遠藤:・・・なんですか?
林田:他のは?
遠藤:え?
林田:他の職業、まだ雇用ならいろいろありますから
林田:遠藤さんのお歳で、最終学歴もいいところ出てるし、まだまだ落ち込む段階じゃないですって
遠藤:そ、そうですか・・・?
林田:そうですよ!
遠藤:じゃあ、はい・・・おねがいします・・・
林田:えーっと、じゃあ他に、お目当ての職業は・・・
遠藤:ううん・・・海賊がダメなら・・・
遠藤:あ、あれなんかどうですか!
林田:お!どれですか!
遠藤:これもまた、なんていう仕事かはわからないんですけど・・・
林田:任せてくださいっ
遠藤:わあ!頼もしいなぁ!
林田:ふふん
遠藤:えっとえっとー
林田:はいはい
遠藤:パソコンとかを、使ってるイメージが、うん、あります
林田:ほうほう、パソコンですか
遠藤:はい、結構長い間、パソコンを使う仕事
林田:えーっと・・・事務職?いや、エンジニアってこともあるか?
遠藤:パソコンのプログラミングとかに詳しくて、その手のプロフェッショナルって感じ、ですかね・・・
林田:はーなるほど、プログラミング系ですね多分
遠藤:依頼された仕事に従ってプログラムを組んだり、すでに組んであるプログラムの解析をしたり・・・
林田:ふむふむ・・・
遠藤:ヘッドセットで現場に指示を出しながら、政府の重要組織の基幹システムに忍び込んで
林田:・・・
遠藤:国の秘密を暴いて、悪徳政治家を晒し上げ
林田:諜報員のゆく先の、分厚いゲートをなんなく開けて
遠藤:ラップトップを小脇に抱え、けだるい表情、
遠藤:ぼさぼさ頭を搔きながら、首にはすこしデカめのヘッドフォン
林田:そこで一言!
遠藤:まーた任務っすかぁ?3徹(さんてつ)っすよ?
林田:・・・ハッカー?
遠藤:そう!ハッカー!
林田:夢あるー!
遠藤:夢ありますよね!諜報機関に所属していながら、一番ゆるいポジションなのがたまんない!
林田:わかる!わかります!
遠藤:白衣とか着てて、普段はものすごいだらしないのに、ここぞという時に頼りになる司令塔的存在!
林田:かっこいー!
遠藤:しかもしかも!今ならリモートワークで出来るから、アジトに出勤する必要なし!
林田:うんうん!アジトにね!
遠藤:パソコンひとつで悪を討つ!リモートハッカー遠藤!
林田:おー!リモートハッカー遠藤!
遠藤:雇用の程は、いかにー!
0:間
林田:いやないですよ
遠藤:えええええええええええ!?
林田:ないですって
遠藤:ないかぁああああああ・・・
林田:あからさまに落ち込みますね・・・ないでしょ普通
遠藤:そ、そうなんですか・・・?
林田:というかそもそも、遠藤さんプログラミング詳しいんですか?
遠藤:いや全然
林田:だめじゃないですか
遠藤:うーん・・・
林田:他、他ないんですか
遠藤:他?うーん、他ですかぁ
林田:そうそう、出来れば遠藤さんのご希望に合わせてこちらも斡旋したいので!
遠藤:そうですねぇ・・・
0:少しの間
遠藤:あ!
林田:お!
遠藤:馬に乗ってて~、腰には鉄砲を二丁さしてて~、そんで投げ輪を・・・ぶんぶんぶんぶん!!
林田:カウボーイ?ないですよ
遠藤:えええええ!早い!!!
林田:ないですよ、カウボーイ、あるわけないじゃないですか
遠藤:えーん!急に冷たいよー!
林田:さっきも言いましたけど、今は21世紀ですし、ここは日本です
林田:カウボーイは主にテキサスで牛の放牧業を行っていた人々の呼称で、農業系の仕事ならありますけど、遠藤さんが思い浮かべてるような、孤高のガンマン的な雇用はありません
遠藤:そうかぁ、ないのかぁ・・・
林田:そもそも孤高のガンマンの募集なんて誰が出すんですか
遠藤:・・・国?
林田:カウボーイって公務員だったのか!
遠藤:そうなんですか!
林田:そんなわけないでしょう
遠藤:(うなだれて)うえぇー・・・
林田:ちょ、遠藤さん、そんなうなだれて、他の方もいますから!
0:間
林田:はぁ・・・遠藤さん
遠藤:はい・・・
林田:あの、非常に言いづらいんですけど・・・
遠藤:なんですか・・・
林田:夢を見るのもいいですけど、それ以上に、現実を見ないと・・・
遠藤:現実、ですか・・・
林田:そうです
林田:海賊がカッコいいのも、ハッカーに憧れるのも、カウボーイの良さもわかりますけど
林田:しっかり現実を見て、自分ができることを、コツコツやっていかないと
遠藤:僕が・・・できる事・・・?
林田:そうです
林田:遠藤さんには、遠藤さんにしかできないことがある
林田:私だってそうです。
林田:大学を出てから、いろいろな会社に勤めましたが今の仕事は天職ですよ
林田:エージェントとして、お仕事をしたい方々に様々な仕事を斡旋する
林田:小さいころから、人を見る目だけは長けてましたからね
林田:今までお仕事を斡旋した方々はみんな、自分の居場所を見つけて、生き生きと働いています
林田:遠藤さん、再三になりますが、何度でも言います
林田:あなたにしかできないことがある。
林田:あなたの代わりはいないんですから、一緒に、あなたにあった職業、探しましょう!
遠藤:林田さん・・・
林田:全力で、力になりますから
遠藤:林田さん!僕・・・僕・・・
遠藤:・・・現実を見て、頑張ってみます!!
林田:そうです!その意気です!
遠藤:よーしやる気出て来たぞー!
遠藤:こうなったら泥臭い仕事でもなんでもやってやる!
遠藤:夢は探すもんじゃない!持つものなんだから!
遠藤:どんな仕事だって、その仕事なりの夢を追いかけて、僕は僕の人生を見つけていこうじゃないか!!
0:遠藤が意気込んでいる中、林田は冷静にPCを見つめている。
林田:(PCを操作しながら)じゃあ遠藤さんの学歴と、年齢と、前職を加味して、
林田:今ご紹介できるお仕事でしたら・・・
林田:えっと・・・宇宙飛行士
遠藤:夢あるぅー!
林田:トレジャーハンター
遠藤:夢あるぅー!
林田:バイオリン職人
遠藤:夢あるぅー!
林田:ヒーロー
遠藤:夢あるぅー!
林田:マッドサイエンティスト
遠藤:夢あるぅー!
林田:(あなたの思いつく夢のある職業)
遠藤:夢あるぅー!
林田:(あなたの思いつく夢のある職業)
遠藤:夢あるぅー!
0:(以下は何度繰り返してもいいです。アドリブでしめちゃってもいいです。適当なところで終演ボタンを押して終わってください。)
0:職業が羅列されるなか、徐々に暗転。
0:完
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