作品名の後の数字は「男:女:性別不問」の比率になっております。

[4:1:1]となっていたら

・男性4人、女性1人、男女どちらがやってもいい役が1人

という感じです。

あくまで台本選びのガイドなので、これを必ず守らないといけないというものではないのでご了承ください

※上演の際は必ず「利用規約」をお読みください

夢の泉動物公園 [0:0:2]

0:ここは動物園の事務所。研修生が熱心にノートに何かを書き込んでいる。

研修生:えっと、切り方は・・・縦長のやつと、キャベツはざっくり切って・・・

研修生:あ、でもふれあいの所はコップだから、もうちょっと細くしないとな・・・

研修生:あれ?量ってどうやって調節してるんだろ・・・

研修生:コップ監視するのかな・・・

研修生:うーん・・・

0:と、そこに職員が入ってくる。

職員:手塚君

研修生:あ、坂田さん、お疲れ様です

職員:お疲れ様

職員:なに?勉強?

研修生:あ、まあ、はい、質問とかまとめておこうかと思って

職員:そっかそっか

職員:真面目なのはいいけど、結構きついから、休める時に休んでおいてね

研修生:あ、それは大丈夫です、もう十分、元気です

職員:ははは、若いっていいなあ

研修生:いやぁ

研修生:あ、そうだ坂田さん

職員:うん?

研修生:あの、動物のごはんってどうやって管理してるんですか?

職員:ごはん?

研修生:そうです

研修生:確かふれあいゲージってありましたよね、お客さんがあげられるやつ

職員:ああ、うん、そうだね

研修生:お客さんからどれだけごはん貰ったかで、僕らがあげる量も変わってきますよね

職員:おー、良いところに気が付いたね、さすが動物飼育専攻

研修生:ああ、いえ、どうも(苦笑)

職員:えっと、もう園内回ったんだっけ?

研修生:え?いえ、まだです、昨日は事務手続きとか諸々研修で

職員:あ、そう

職員:そっか

職員:じゃあ・・・うん、そろそろ休憩終わるし、行こうか

研修生:あ、はい

職員:とりあえず、私いろいろ準備あるから、時間になったら正門集合で、おっけー?

研修生:わかりました!

職員:よし、じゃあ、またあとでね

研修生:はい!ありがとうございます!

職員:あはは、元気でいいねぇ

0:職員、去る

0:シーン転換の間。正門前、待っている職員の所に研修生がやってくる。

研修生:坂田さん

職員:お、手塚君、お疲れ様ー

研修生:お疲れ様です

職員:じゃ、行こうか

研修生:はい、よろしくお願いします

職員:はーい

0:二人、歩き始める

研修生:いやーでも、なんだか不思議な感じですね

職員:不思議?

研修生:いやその、こう、誰もいないから

職員:休園日だからね

研修生:普段、私も好きでよく来てたんですけど、なんか人がいないとまた、雰囲気違ってわくわくしますね

職員:あはは、手塚くんは本当に動物が好きなんだねえ

研修生:ええ、なんかすいません

職員:なんで謝るの、いいじゃない、好きなものを職業に出来るなんて、幸せ者だ

研修生:動物園の職員って、みんな動物好きじゃないんですか?

職員:うーん、まあ、そういうわけでもないかな

職員:手塚くんみたいに、本当に動物が好きで勤めてる人もいれば、業界に入って、仕事がキツくて動物嫌いになっちゃう人もいるし

研修生:そうなんですか・・・

職員:あ、あー、これは今の君には言わない方がよかったかな・・・

研修生:いえ!僕ほんと、夢だったんで、なんでも聞きたいです!

職員:いいね、情熱、若さだね

研修生:あはは

0:少しの間

職員:さてと、とりあえず、メインストリートに来たわけだけど、手塚くんどこまで聞いてる?

研修生:えっと、どこまでって?

職員:いや仕事の・・・あー、えっと、ほらほら、こっち来て

研修生:はぁ

職員:えっと、今居るのがここね、メインストリート

研修生:はい

職員:で、ここから枝分かれになってて熱帯エリア、サバンナエリア、ジャングルエリアに併設されたトリの館(やかた)と、マンボウの部屋

研修生:ふむふむ

職員:そして、手塚君と私の持ち場はここ

研修生:なかよしストリート

職員:そ、なかよしストリート

職員:ここでは主に哺乳類、サルとか、ネコとか、そういうのね

職員:うち一番の人気者が居るのも、ここ

研修生:人気者?

職員:うん、えっと・・・いいや、とりあえず行ってみよう

研修生:あ、はい

職員:とはいえ、すぐそこなんだけど・・・はいついた

研修生:おお、近いですね

職員:はい、うちの一番人気、カピバラさんの檻でーす

研修生:おお、カピバラ

職員:そう、カピバラ

職員:あ、それで、さっきの質問だよね、ごはんの管理

職員:えっと、お客さんがあげる野菜はここにほら、さして置くのね

職員:で、まぁ基本的にはここからどれだけ無くなったかっていうのを、定期的に確認してるの

研修生:ああ、大体想像してた感じだ

職員:さすがだね

職員:たいていお客さんからもらうごはんで十分なんだけど、平日とかは私たちで調節することもあるから、まあそこの割り振りはあとでやろうね

研修生:はい!

職員:カピバラは南米の生き物で、川べりとかに生息してるからああやって水に入るのね

職員:世界最大のげっ歯類としても有名で、最近は温泉入ってる画像がSNSとかで流れてるよね

研修生:そうですね

職員:あれの影響で、カピバラ目的で来るお客さんが増えてね、今では園で一番人気者

研修生:へぇ・・・

職員:そんなとこかな・・・エサやりのタイミングとかはまあ、事務所でスケジュール渡すから

研修生:あ、はい

職員:じゃあ、次行こうか

研修生:あの、坂田さん

職員:ん?

研修生:あれ・・・?いやでも・・・ん?

研修生:え?カピバラってこんな感じでしたっけ?

職員:え?どういう事?

研修生:いや、僕の知ってるカピバラとちょっと違うなって

研修生:だって、カピバラってなんか、のそのそ動いて、もしゃもしゃ食べて、いっつも眠そうな感じの・・・

研修生:でも・・・なんか速くないですか?

職員:・・・

研修生:え?坂田さん?

研修生:いや、絶対速いですよねあれ!

研修生:だってもう、え、なんですかあれ、ミニ四駆と同じくらいのスピード出てますよ、え?あれほんとにカピバラですか!?

職員:・・・

研修生:あれ?坂田さん?

職員:・・・

研修生:え、ちょっと、坂田さん?

職員:・・・

研修生:坂田さん!!

職員:ん?どうかした?

研修生:いや、カピバラ・・・

職員:よし、じゃあ次の動物紹介するね

研修生:え・・・あはい

職員:うん、えっと次は、こっち

研修生:はぁ・・・

職員:えーっと、ここは、一応専門の職員さんが担当してるから私たちはノータッチなんだけど、一応ね

職員:ホワイトタイガーのランちゃんでーす!

研修生:・・・え、長くないすか?

職員:・・・

研修生:え?ホワイトタイガーってトラですよね・・・

研修生:ダックスフントみたいになってますよ?いや、ダックスフントっていうか、模様も相まってチンアナゴみたいになってますよ?

研修生:ほら、檻に収まりきらなくて胴体の途中とぐろ撒いちゃって・・・坂田さん?

職員:・・・

研修生:あれ?え?坂田さん?

職員:ホワイトタイガーのランちゃんです

研修生:え、あ、はい

職員:はい

研修生:え・・・いやいやいやいや

職員:どうしたの手塚君

研修生:どうしたのじゃないですよ、トラ長くなってますって、ほら

職員:そりゃ今は休園日だから長くもなるよ

研修生:え?あ、これそういうやつ?人に見られてない状況でしか発生しないレア習性みたいなこと?

職員:まあ、私たちにとってはレアじゃないけどね

研修生:え、えぇぇ・・・

職員:ほら、どんどん行くよ

研修生:はぁ・・・

職員:はい、じゃあ次はー

職員:ここね、マンドリルのドリちゃん

研修生:マンドリル・・・

職員:そう、オナガザル科、顔の模様が特徴的だね

研修生:え、どこにいます?

職員:ん?いるじゃないか、ここに

研修生:え?いや、これはピンクと青色の壁でしょ・・・

職員:いやいや、檻だよ、ガラスガラス

研修生:ガラス・・・?

研修生:あ、そういうことか、檻の中で膨らんだマンドリルがこう、中でパンパンになって・・・

職員:そうそうそう

研修生:そうそうそうじゃないですよ!!

職員:何を怒鳴っているんだ・・・

研修生:いや、え?坂田さん?え、異常ですって!

職員:通常だよ

研修生:だって、ここにいる動物、なんか変ですって!

職員:変じゃあないよ、これが普通なんだって

研修生:ええ・・・ミニ四駆と同じ速度で走るカピバラ?

職員:普通だ

研修生:伸び伸びホワイトタイガー?

職員:普通だね

研修生:すし詰めマンドリル?

職員:ああ普通だ

職員:加えていうならオットセイは輪切りだし、ラクダは液体だ

職員:アライグマは薄い膜(まく)だし、ヤマアラシは高密度

研修生:あ、あの・・・

職員:アメリカバイソンは和服だし、ワニは5頭(ごとう)で1匹(いっぴき)

研修生:坂田さん!

職員:うん?

研修生:坂田さん・・・僕、怖いです・・・

職員:・・・ああ、わかるよ

職員:私も最初は怖かったけど、今はこれが普通だって思ってる

研修生:坂田さん・・・

職員:手塚君

研修生:はい・・・

職員:君さ、何種類の動物に触ったことがある?

研修生:触ったこと?

職員:そう、実際に、自分の手で触れた事のある動物

研修生:ええと・・・犬とか、ネコとか・・・

研修生:あとは、実習で、牛とか、ヤギとか、ペンギンとか・・・

職員:何種類くらいかな

研修生:まぁ、どうですかね・・・

研修生:30種類くらい、ですか・・・?

職員:ふむ、さすがだね

職員:じゃあもうひとつ

職員:世界には何種類の生き物がいると思う?

研修生:それは、学校で習いました・・・

職員:いいね

研修生:140万種類・・・

職員:そう、おおよそ140万種類

職員:そのうち手塚君は、30種類しか触ったことがない

職員:今までにカピバラを触ったことあった?

研修生:ないです・・・

職員:ホワイトタイガーは?

研修生:ないです・・・

職員:マンドリルは

研修生:ない、です・・・

職員:つまりね、そういう事なんだよ

職員:人類は、この地球のほんの一部しか知覚していない

職員:いや、知覚していると思っているその事実さえ、本当はまやかしかもしれない

研修生:坂田さん・・・

職員:例えば、これ、動物園のガラスの檻

職員:これが実は、透明なガラスじゃなくて、ただのモニターだったら

職員:実際にはガラスの奥なんて存在してなくて、みんながそういう姿だと「思い込んでいる」動物の姿が映写されているだけだったら

研修生:坂田さん・・・

職員:だれがそれを証明できる?

職員:中にも入れない、触れもしない動物が、そこにいるという事を・・・

職員:その点で言うと、ここにいる奇妙な姿の動物たちも、もしかしたら

研修生:坂田さん!!

研修生:もう・・・やめてください・・・

研修生:もう、いいです・・・

0:その場にへたり込む研修生

0:職員は一度大きな深呼吸をして、再び話し始める

職員:そして、手塚君、君は、私にも、触れてない

職員:「目の前にいるから」「見えているから」「会話ができているから」

職員:盲信してはいけないんだよ

職員:どうぶつほど、危うい存在はない

職員:私たち人間だって、それは同じさ

研修生:・・・

職員:さぁ、園内ツアーはまだ途中だよ、立ちなさい、手塚君

研修生:坂田さん・・・

職員:ほら、私の手を掴んで、私に触れて、一緒に頑張ろう

研修生:僕、出来るかどうか・・・

職員:大丈夫、私がいろいろ教えてあげよう

研修生:動物が嫌いになるかも・・・

職員:慣れればかわいいもんさ

研修生:坂田さん・・・

職員:ほら、手を取って

研修生:・・・はいっ

0:研修生が手を掴むと、あたりの風景が一変する

0:そこは無機質な空間

0:研修生が患者衣で椅子に縛り付けられており、向かいには先ほどまで職員だった男が白衣で座っている。

職員:脈拍安定、お帰りなさい手塚さん

研修生:あれ・・・?

職員:うまくいってよかった、一時は危ない状態だったんだけど、よかった、本当に

職員:護送車が到着するまで、しばらく時間があるか・・・

職員:手塚さん、少し辛い姿勢かもしれないけど、それ、ほどく事はできないから、そのままでね

研修生:・・・

職員:私は次の患者さんの所に行くから、すこし外すけど、くれぐれも変な事考えないようにね

職員:監視カメラ、あるからね

研修生:坂田さん・・・

職員:それじゃ

0:間

研修生:あぁ・・・そうか・・・

研修生:坂田さんなんていないや・・・

研修生:動物も・・・別に・・・

研修生:はぁ・・・長い悪夢を、見ていたようだ・・・

0:がくりと肩を落とす研修生

0:幕

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