作品名の後の数字は「男:女:性別不問」の比率になっております。

[4:1:1]となっていたら

・男性4人、女性1人、男女どちらがやってもいい役が1人

という感じです。

あくまで台本選びのガイドなので、これを必ず守らないといけないというものではないのでご了承ください

※上演の際は必ず「利用規約」をお読みください

METRO [1:2:0]

:【オープニング】

0:舞台奥の五つの車窓(モニター)に流れる風景。

0:街の風景が映し出され、下手から上手へと流れていく。

0:と、車窓が突然暗くなる。

0:地下鉄である。

0:空気圧と車輪音が車内に反響する。

0:轟音に交じって、抒情的なピアノのインストゥルメントが流れ、暗転。

0:車窓に映し出される「METRO」の文字。

0:完全に暗転

:【オフィス】

0:男性が上司として登場。

0:みさことスーツ姿の男(上司)が向かい合っている。

男性:別に筒井さんは悪くないんだけどさ、もちろんミスするほうが悪いんだけど、ただ事前にこういうの気づくのも上司の仕事だと私は思うのね

みさこ:はあ

男性:少なくともさ、予兆はあったわけじゃない?たぶん筒井さんも気づいてたと思うんだけど、ほら、最初PCの電源つかないって騒いでたのも、あれ彼女じゃなかった?

みさこ:ええ

男性:あれ・・・結局あれなんで点かなかったんだっけ?

みさこ:え・・・電源プラグが刺さってませんでした

男性:だよねー

男性:だからそういうところから予兆はあったわけだから、もう少し打つ手はあったんじゃないかなと思うのよ、私は

みさこ:ええ

男性:例えば研修、そう研修するとかさ

男性:研修した?

みさこ:いえ・・・

男性:別に1時間くらいなら業務止めても何にも言わないからさ、事前に研修をしておくとかさ

みさこ:すみません

男性:いや、だから別に筒井さんを攻めているわけじゃないんだけどさ

みさこ:ええ・・・

男性:筒井さん?

みさこ:はい?

男性:大丈夫?

みさこ:何がですか

男性:いや、今私の話聞いてた?

みさこ:ああ、はい

男性:私なんて言ってた?

みさこ:えっと、研修・・・

男性:そう、研修

男性:だからね、研修やるとか、マニュアル作って渡すとか、出来る事はあったと思うのよ、私は

男性:もちろん筒井さんが全部やるのは大変だから、その辺は管理部に依頼してもらえればやるし

男性:とにかく、後手後手に回るのはいい加減にやめようよって話をしたいんだよね、私は

男性:ほら、医療、医療でもさ、対処医療じゃなくて予防医療の方が大事だっていうしさ

男性:消毒、検疫、患者の隔離そういう個々人の心がけもそうだし、上下水道の整備とかそういった国の対処もしっかりしないと町が不衛生になっちゃうでしょ?

男性:つまりさ、そういった予防を社員のマネジメントにもしていってほしいと思ってるわけよ、私は

みさこ:・・・

男性:筒井さん?

みさこ:はい

男性:わかる?予防医学

みさこ:・・・

男性:筒井さん?大丈夫?

0:間

みさこ:やめます

男性:え?

みさこ:わたし、辞めます、会社

男性:・・・え?

みさこ:長い間お世話になりました、わたし辞めます

男性:ああ、え?

みさこ:じゃあ、そういうことなんで、失礼します

男性:あの、筒井さん

みさこ:(くるりと振り返って)あ、それと部長

みさこ:部長も予防した方がいいですよ、口臭、ちょっとキツいんで

男性:え、ああ、そう・・・

みさこ:じゃ

男性:ああ、はい・・・(無意識に片手をあげて)じゃあ

0:オフィスを出ていくみさこ、残される男

男性:(手で口を覆って口臭を確認する)はぁー・・・はぁー・・・

男性:・・・えっ?

:【駅】

0:女性は母親として登場、みさこと電話をする。

みさこ:はいもしもし

女性:あら、出た

みさこ:何?

女性:この時間に出るなんて珍しいじゃない、休憩?

みさこ:うん、で、どうしたの?

女性:ああ、そうそう

女性:あんたまた財布無くしたでしょ

みさこ:え?なんで?

女性:通知着てるよ、クレカ会社から

みさこ:あ、そうなの

女性:そうなのってあんたねえ

女性:とりあえずこれどうすればいい?あんたんとこ送る?

0:少しの間

みさこ:いや、いい、取りに帰る

女性:え?取りに来るの?

みさこ:うん、取りに帰る

女性:あ、そう・・・ってあれ?あんた明日も仕事じゃないの?

みさこ:うん

女性:こっち帰れるの?有給取るとか?

みさこ:ううん

女性:じゃあ帰ってきたらマズいじゃない、やっぱ送るよ

みさこ:いいって

女性:いいってあんた、どうすんのよ、うちから会社行くの?

みさこ:いや、うん・・・

女性:・・・なんかあったの?

みさこ:・・・

女性:・・・なんかあったのね

みさこ:・・・うん

女性:わかった、何時くらいにつく?ご飯なにがいい?

みさこ:わかんない、わかったらメールするね

女性:あ、そ

女性:ごはんは?

みさこ:うーん、なにがあるの?

女性:食べたいのあれば買っておくけど

みさこ:おそうざい?

女性:お母さんが作るよ

みさこ:そっか、おかあさんのご飯か

女性:うん、で、なにがいい?

みさこ:えっと・・・

みさこ:たまごのやつ

女性:はいはい、たまごのやつね、了解

女性:じゃあ時間わかったら教えてね

女性:駅まで迎えに行くから家近くなったらメールして

女性:あ、それとあんた淡路(あわじ)通るでしょ?バウムクーヘン買ってきてよ

女性:ほら、おかあさんが前に言ってたテレビのやつ、駅の百貨店にたしか入ってたよね

女性:あれこっちだと売ってなくてさ、ホームページで送料見たら800円だって

みさこ:おかあさん

女性:ん?どうしたの?

みさこ:・・・ううん、駅ついた

みさこ:地下鉄だから、切るね

女性:うん、気を付けて帰って着なさいね

みさこ:うん

女性:近くなったらメールしなさいね

みさこ:うん

女性:座席、あったかいとこ座りなさいね

みさこ:わかってるって、切るよ

女性:はいはい

0:電話が切られる。しばらくの間。

みさこ:おかあさん

みさこ:私ね

みさこ:また財布なくしちゃった

みさこ:近くの交番に届いてたけど、中に入ってた2万円、盗まれちゃった

みさこ:おかあさん

みさこ:私ね

みさこ:また彼氏に振られちゃった

みさこ:いっぱい話し合って、いっぱい泣いたけど

みさこ:結局喧嘩ばっかりになって、別れちゃった

みさこ:しんどいって言われちゃった

みさこ:おかあさん

みさこ:私ね

みさこ:また会社やめちゃった

みさこ:長く勤めなきゃお給料も上がらないって

みさこ:わかってるんだけど、また辞めちゃった

みさこ:おかあさん

みさこ:私ね・・・

0:間

みさこ:結局また打ち明けられなかった

みさこ:結局また言えなかった

みさこ:結局また甘えられなかった

みさこ:秘密と、気持ちと、心の重り

みさこ:全部乗せて、自動ドアが、閉まる

:【地下鉄】

0:男性が車掌として登場

男性:えー本日はご乗車いただき~、誠にありがとうございます。

男性:この列車は~、天下茶屋(てんがちゃや)ゆき~、各駅停車~、次は扇町(おうぎまち)~、扇町~

みさこ:ゆっくりと列車が走り出す

みさこ:私の乗った車両には、4人しか乗っていなくて、私を含めて5人で

みさこ:イヤフォンで音楽を聴く若者と、親子と、帽子を深くかぶったホームレス風の男

みさこ:電車が速度を上げると、窓が揺れて、がたがたというやかましい音が車内に響く

みさこ:いつからか始まった女の子の鼻歌がうっすらと聞こえてきて、見ると母親が必死にそれを止めようとしている

みさこ:鼻歌と、電車の揺れと、車内アナウンスと

みさこ:そのどれもが、私の脳内に凝り固まった深緑色のしこりをゆっくりと溶かしてくれるようで

みさこ:心地よくて・・・

男性:えー本日はご乗車いただき、誠にありがとうございます。

男性:この列車は~、天下茶屋(てんがちゃや)ゆき~、各駅停車~、次は扇町(おうぎまち)~、扇町~

みさこ:あれ?扇町?

男性:ええ、扇町~

男性:次は扇町~

みさこ:え?天下茶屋ゆき?

男性:ええ、天下茶屋ゆき~

男性:この列車は、天下茶屋ゆき~

みさこ:ということは、各駅停車?

男性:はい、各駅停車~

男性:各駅停車~

みさこ:まちがえた

みさこ:乗る電車をまちがえた

みさこ:あの、この電車、折り返しますか?

男性:はい、終点で折り返します~

みさこ:終点までいかないと折り返さない?

男性:そうですね~

みさこ:そうですか・・・

男性:間違えちゃいましたか~?

みさこ:間違えちゃってますね、これは完全に

男性:そうですか~

みさこ:ええ

0:間

男性:まもなく~扇町~扇町~、お降りの方は~お忘れ物のないよう~お気をつけください

男性:開くドアは、左側です。

男性:なお~電車とホームの間に空間がございますので~

男性:降りる際は、ご注意ください~

男性:扇町~扇町~

男性:ドア、開きます。

0:ドアが開く

みさこ:・・・

男性:お客様~

みさこ:え?私?

男性:ええ、お客様~

みさこ:はい

男性:降りないんですか~

みさこ:ええ、まあ、いいかなって

男性:なぜですか~

みさこ:だって、折り返すんでしょ、この列車

男性:折り返しますが~、ここに帰ってくるのに往復30分くらいかかり~ますっ

みさこ:いいよ、別に、急いでないし

男性:わかりましたぁ~

男性:ドアー、しまりーますっ

みさこ:ゆっくりと走り出す列車

みさこ:子供の鼻歌はまだ続いてて、電車が加速する音と、若者のウォークマンがシャカシャカ言う音と

みさこ:シャカシャカシャカシャカ

みさこ:シャカシャカチキン

みさこ:パウダー追加で

みさこ:しょっぱっくない?

みさこ:「これがいいんだって」

みさこ:いやいや、しょっぱいよ絶対、腎臓ダメになるって

みさこ:「これがいいんだって」

みさこ:じゃあ飲み物何にする?

みさこ:「うーん、メロンソーダ」

みさこ:カロリー取りすぎじゃない?シャカシャカチキンも味濃いし、メロンソーダも甘いし

みさこ:「これがいいんだって」

みさこ:全然わかんない

みさこ:どれがいいのよまったく・・・

:【友達】

0:女性がみさこの友人として登場

女性:これがいいんだって

みさこ:またそれ?

女性:ほんとだって、試してみなって

みさこ:私はいいよ、ほんと

女性:えーなんでよ

みさこ:味濃いの苦手だし

女性:濃くないって、おいしいから

みさこ:いや、だし、私チキンあんまり好きじゃないから

女性:そうなの?

みさこ:うん、だから食べていいよ

女性:みさこ食べないの?

みさこ:うん、私これでいいから

女性:ポテトだけ?死んじゃうよ?

みさこ:しなないよ

女性:死んじゃうって、ポテトばっかり食べてたら、だんだん体内の細胞がポテトに置き換わっていって、ある日目覚めたら・・・

女性:どうも、ポテトガールですっ

みさこ:いいじゃん、ポテトガール

女性:よくないよ、ポテトガールはほら、お風呂入れないの、体がふやけてくだけて死んじゃうから

みさこ:なにそれ(笑)

女性:だから、やでしょ?お肉も食べなきゃ

女性:ハイお肉

みさこ:だからいらないって

女性:なーんでよー

みさこ:パウダー二倍だからだよ

女性:ふーん、おいしいのに(もぐもぐ)

みさこ:まあ、好みは人それぞれだから

女性:(少し考えて)・・・まあそうね、それもそう

みさこ:うん

0:間

女性:で、どうなの?

みさこ:んー?なにが

女性:いやほら、彼氏?

みさこ:ああ、うん・・・

女性:え、なに

みさこ:いやね、まあ仲いいよ、うん、仲いい

女性:けど?

みさこ:ううん、けどとかはないよ、普通、っていうか、普通以上?

女性:・・・

みさこ:もはや、普通以上、以上、的な、さらに上、的な

女性:・・・

みさこ:・・・

女性:本当は?

みさこ:うん、本当は、ちょっと不安

女性:なんで?

みさこ:基本的には優しいんだけど

みさこ:落合君、演劇やってるから

みさこ:そのーなんだ、夢追ってすごいなーみたいな

みさこ:自分で脚本書いてさ、演出までしててさ

みさこ:私もさ、そういうの見てやる気貰ってるっていうか?

みさこ:うん・・・

女性:・・・金か

みさこ:ええ!?

女性:金ないんか、その落合ゆー男は

みさこ:お金はーえーっと

女性:ないんか

みさこ:・・・うん、そうだね、頑張ってるんだけどね

女性:貸してるんか

みさこ:え?

女性:いくら貸してるんか

みさこ:まあ・・・すこしね?

女性:はぁ~・・・・

みさこ:な、なに

女性:いやー学習しないなーって

みさこ:何学習って

女性:前の彼氏の職業なんだっけ

みさこ:バンドマン

女性:その前は?

みさこ:バンドマン

女性:その前は?

みさこ:芸人

女性:その前は?

みさこ:パチプロ

女性:(馬鹿にしたような感じで)パチプロ

女性:学習しなってぇ

みさこ:だから何、学習って

女性:芸術家はやめときなってこと

みさこ:・・・パチプロは芸術家じゃないもん

女性:(笑って)そこじゃないって

女性:稼ぎが安定しない男はやめなって

みさこ:・・・しょうがないでしょ、好きになったんだから

女性:いやだからさ、考えた方がいいって

女性:落合君と出会った時、一緒に舞台見に行った時もさ

女性:みさこすぐ話しかけに言ったじゃん

女性:「ファンになりましたー」とか言ってさ

女性:それでまんまと食われて、彼女になって、じょじょにだらしないところ出てきて、金たかられて

女性:最初は我慢できるけど、だんだんイライラしてきて、我慢できなくなって、どんどん都合悪い女になって最終的に

女性:ぽいっ

女性:私行ったじゃん、やめといたほうがいいって

みさこ:・・・そういう言い方ないと思うんだけど

女性:え?

みさこ:そういう言い方ないと思うんだけど!

みさこ:そりゃ落合君はお金ないけど、一生懸命演劇頑張ってるし、落合君の書く作品面白いなって思うし、演技もうまいなって思うし

みさこ:それに、一緒にいて癒されるし、笑うと顔がクシャってなるところとか、夜ご飯なのにパンとウインナーなところとか

みさこ:白髪気にしてる所とか、化粧水はやるくせに乳液嫌がるところとか、そういうの全部しってるの私だけだし

みさこ:それをなんにもしらない絵里に言われたくないんだけど

女性:はぁ?あたしはあんたを心配して言ってるんだけど

みさこ:心配?しょっぱいチキン食べながらべらべら人の男の愚痴をいうのが心配?

みさこ:あんたはただアドバイスしてあげてる自分に酔ってるだけで、落合君の事もしらないし、なんなら私の事もどうでもいいって思ってるんでしょ!

女性:なにそれ・・・え、みさこ自分が何言ってるかわかってる?

みさこ:この際だから全部言うけど、絵里のそういうマウント取ってくる態度とか、無神経なところとかずっと嫌だったし

みさこ:正直なんだかんだ言ってくるけど男の事に関しては絵里の方が「ちょっと大丈夫かなこの人」って思うし

女性:は?私のどこが「大丈夫かな」なのよ

みさこ:いろいろ、ぜんぶ

女性:ぜんぶってなに、どこ、具体的にはどこ

みさこ:・・・

女性:ほら、言えないんじゃん

みさこ:セフレがいっぱいいるところとかだよ!!!!

0:男性が定員として登場する

男性:あの、お客様

みさこ:ごちそうさまでした!

男性:えっ、あ、はい、どういたしまして

女性:ちょ、みさこ待ってよ

みさこ:ついてこないでよ!

男性:あの、お客様・・・

みさこ:チキン!おいしかったです!

男性:えっ、あ、はい、ありがとうございました

女性:あんたチキン食べてないじゃん

みさこ:うるさい!さよなら!

男性:あの、店内であまり大きな声は

みさこ:次は!!!

男性:ひっ

みさこ:次は、チキン食べますから!しゃかしゃか二倍で!

男性:あ、えっと、お待ちしております!

みさこ:失礼します!

0:みさこ、出ていく

男性:次は・・・チキン・・・

男性:次は・・・次は・・・

男性:次は~日本橋(にっぽんばし)~、日本橋~

男性:本日も大阪メトロをご利用いただきまして、ありがとうございーますっ

みさこ:気が付くと、列車はずいぶん進んでいて、人も少なくなっていて

みさこ:親子も、ホームレス風の男も降りてしまったようで

みさこ:残った車内には、私と、イヤフォン少年のシャカシャカ音が残されていて

みさこ:蛍光灯が照らす明かりが、車窓に流れるトンネルの壁を四角く切り抜いていた

男性:まもなく、日本橋~、日本橋~、お出口は~左側~ですっ

みさこ:扉が開く

みさこ:少年が立ち上がる

男性:お降りの際は、車両とホームの間にお気をつけて~・・・

みさこ:乗ってくる人は・・・いない

男性:ドア閉まります、駆け込み乗車は~ご遠慮くだ~さいっ

みさこ:ぷしゅーっという音と共に、自動ドアが閉まる

男性:けほん(咳払い)

みさこ:車掌さん、マイク、切れてませんよ

男性:あ、これは失礼いたしましーたっ

みさこ:ぷつり

みさこ:車内アナウンスが切断されるノイズが鳴る

0:電車が加速する。

みさこ:平日の昼間、午後1時

みさこ:各駅停車、天下茶屋ゆき

みさこ:地下鉄メトロ、トンネルのなかで

みさこ:わたしはとうとう、ひとりになった

みさこ:細い管の中、一人になってしまった

0:間

女性:私行ったじゃん、やめといたほうがいいって

みさこ:うん

女性:あんたを心配して言ってるんだけど

みさこ:そうだよね、ありがとうね

女性:芸術家はやめときな

みさこ:ははっ、確かに、でもさ、憧れちゃうんだよね

女性:本当は?

みさこ:本当は?

みさこ:本当は・・・嫉妬なのかな・・・

:【恋人】

男性:嫉妬・・・?

みさこ:うん・・・

男性:え、何に対する嫉妬?

みさこ:うーん、なんだろ、才能?

男性:才能?俺が?

みさこ:うん、落合君すごいもん、ぜーんぶ自分でやって、頑張って、夢追って、落合君のファンとかいてさ、すごいと思う

男性:ええ、うん・・・ありがとう

みさこ:いや、そういうんじゃなくて

男性:え?

みさこ:嫉妬してるって話

男性:ああ、そうか、そうだった、うん

みさこ:うん

男性:だから、やなの?

みさこ:ううん、やじゃない

みさこ:むしろ、嫉妬できるくらいの人と、付き合えてるのって、まあちょっと幸せというか、なんというか

男性:そっか・・・じゃあ、何がやなの?

みさこ:何かが嫌そうに見える?

男性:いや、みさこさんが言ったんじゃん、「やだ」って

みさこ:ああ、そっか、うん、そう、やかも

男性:・・・何が?

みさこ:んー

男性:うん

みさこ:やっぱりさ、バランス?というか

男性:うん

みさこ:ほら、ことわざにもあるじゃん

男性:え?ことわざ?

みさこ:うん、ことわざ

男性:・・・うん

みさこ:目には目を、歯には歯をってさ

男性:ああ、うん。

男性:目には目を、歯には歯を ね

みさこ:そうそう、わたしは、そういう関係がいいの

男性:ああ、うん

みさこ:うん

0:間

男性:どういうこと?

みさこ:えっと・・・だから・・・

男性:うん

みさこ:わたし、落合君の事すごい尊敬してるし、すごい好き

男性:うん

みさこ:わたしさ、落合君に元気もらってるし、勇気とか希望とか、そういうプラスの言葉で表現されるもの、たくさん貰ってるの

男性:あげられてるの?

みさこ:うん、貰ってる、これ以上ないくらい

男性:これ以上ないくらい

みさこ:うん

男性:大げさだなあ

みさこ:大げさじゃないよ、ほんとに、わたし落合君の事すっごい、すき(落合君に抱き着くみさこ)

男性:うん、ありがと

みさこ:(抱き着きながら)それでね、ここでことわざなんだけど・・・

男性:目には目を、歯には歯を?

みさこ:うん、そ

みさこ:私は、落合君の夢持ってる所に元気をもらってる

男性:うん

みさこ:じゃあ、落合君は私から何を受け取ってるのかなって

男性:え?

みさこ:私は落合君から、元気をもらって

みさこ:落合君は、私から元気もらってるのかなって

男性:え・・・えっと・・・

みさこ:考えるんだね

男性:・・・ごめん・・・

みさこ:落合君

男性:うん

みさこ:目には目を、歯には歯を、元気には元気を

みさこ:私が元気を貰ってるんだから、私も、落合君に、元気をあげたいなって思って

男性:うん

みさこ:でも、あげられてないなって思ったら、悲しくなってきてさ

男性:え、そんなことないよ

みさこ:そう?

男性:うん、元気、貰ってるよ、みさこさんに、たくさん

みさこ:ほんと?

男性:うん、超ほんと、みさこさんありがとー!ってかんじ

みさこ:そっか

男性:うん

0:間。みさこが抱き合っている落合君を突っぱねる

みさこ:でもさ、落合君

男性:うん?

みさこ:この前ね、友達に言われて、私思ったんだ

男性:友達?

みさこ:・・・

男性:うん、なんて思ったの?

女性:金ないんか、その落合ゆー男は

女性:考えた方がいいって

女性:落合君と出会った時、一緒に舞台見に行った時もさ

女性:みさこすぐ話しかけに言ったじゃん

女性:「ファンになりましたー」とか言ってさ

女性:それでまんまと食われて、彼女になって、じょじょにだらしないところ出てきて、金たかられて

女性:最初は我慢できるけど、だんだんイライラしてきて、我慢できなくなって、どんどん都合悪い女になって最終的に

女性:ぽいっ

0:間

みさこ:落合君から、私は、元気をもらってて

みさこ:私は、落合君に現金をあげてる

男性:・・・

みさこ:これじゃあ、目には目を、元気には現金をになっちゃうなって

男性:あのさ、そのことわざ、根本的に意味が違うと(思うんだけど)

みさこ:(さえぎって)たぶんね、お互い得るものが違うと、恋愛って取引になっちゃうんだよ

男性:う、うん?

みさこ:どうしても欲しい物・・・例えば指輪があったとして、それを買う時、お金を渡すでしょ?

男性:うん

みさこ:でも、お金と、指輪って違うものじゃない?

男性:うん

みさこ:だから、それは、取引

男性:うん

みさこ:それと一緒で、元気と、現金は違うものでしょ?

男性:う、うん・・・

みさこ:だから、これも、取引

男性:うん・・・あの、みさこさんさ

みさこ:でもね落合君

男性:うん・・・?

みさこ:私、別にそれでもいいかなって思ってる

男性:それでも?

みさこ:うん、落合君から、元気をお金で買うの

男性:・・・

みさこ:私はそれでもいいかなって

男性:そうなんだ・・・

みさこ:だから、これからもよろしくね、落合君

男性:うん・・・あのさ、みさこさんさ

みさこ:うん、なに?

男性:・・・なんでもない、お風呂入る

みさこ:あ、うん、湧いてるよ

男性:うん、ありがと

みさこ:追い炊きしといたから

男性:え?追い炊き?

みさこ:え、うん、追い炊き

みさこ:・・・あれ?関西では追い炊きって言わないんだっけ?

男性:あ、いや、この家追い炊きできたの?

みさこ:え、うん、出来るよ、普通に

男性:えええ!そうなの!知らなかった!

みさこ:ええー!?いままでどうしてたの?

男性:いや、普通にユニットバスだと思って

みさこ:いやいや、出来るよ普通に、ほら、ここ、ボタンあるじゃん

男性:追い炊き

みさこ:そう、追い炊き

男性:あったんだ、追い炊き

みさこ:追い炊き

男性:追い炊き

0:間

:【折り返し】

男性:扇町

男性:扇町

男性:扇町~、扇町~、お降りの方は~足元気を付けて、押し合わないようにご降車くだ~さいっ

みさこ:はっ!

みさこ:・・・寝ちゃった

女性:The next station is Tenjinbasshisuji 6ーchome(ザ・ネクスト・ステイション・イズ・テンジンバシスジ・ロクチョウメ)

みさこ:列車はいつのまにか折り返してて、人もたくさん増えていて

みさこ:ふと

みさこ:携帯を見ると

みさこ:筒井(つつい)ようこ

みさこ:おかあさんからの着信が、5件も溜まっていた

男性:本日も大阪メトロをご利用いただきまして、ありがとうございーますっ

みさこ:しばらくすると、窓の外が明るくなってきて

男性:次は~淡路(あわじ)~、淡路~

男性:お出口は左側です

みさこ:外の風景は、思ったより早く後ろへと流れて行って

男性:この列車は、北千里ゆき~

男性:京都河原町方面、嵐山方面ご利用のお客様は~次の淡路でお乗り換えくだ~さいっ

みさこ:いままで聞こえていたトンネルに反響する列車の轟音も聞こえなくなっていて

みさこ:鉄橋を渡る電車の、ごとり、ごとりという振動だけが、わたしのお尻に伝わってきていて

男性:まもなく~淡路~、淡路~

みさこ:開いた自動ドアからは、冬の冷たい空気が流れ込んで、私のほほを撫でた

0:間。ホームに降りて、電話を架けるみさこ。電話に出る母。

みさこ:あ、もしもし、おかあさん?

女性:あ、もしもしみさこ?

みさこ:うん、みさこ

女性:お母さんもう駅ついてるよ、今どこなの

みさこ:んっと、淡路

女性:え、淡路?

みさこ:うん

女性:え、あんた何時間経ってると思ってんの

みさこ:え、1時間?

女性:うん、もう着くでしょこっち

みさこ:ううん、まだ淡路

女性:あ、そう

みさこ:うん

女性:そ、じゃあ、待ってるからね

みさこ:うん

女性:ゆっくりきなさいね

みさこ:うん

女性:近くなったらメールしなさいね

みさこ:うん

女性:座席、あったかいとこ座りなさいね

みさこ:わかってるって

女性:そう

みさこ:うん

0:間

みさこ:あのさ、おかあさん

女性:うん?

みさこ:・・・ありがとね

0:なにかの間

女性:なに、気持ち悪い

みさこ:気持ち悪くないよ

女性:とにかく、待ってるからね、焦らずおいで

みさこ:うん

女性:じゃあね

みさこ:うん、じゃあね

0:電話が切られる

0:夕方、淡路駅の不自然に組み立てられた工事用の鉄骨や足場に西日が差す。

0:踏切の音がFOしてゆく。

:完

:お借りした曲

:『泣くことないよ』

:作(編)曲 : 風可&葉羽

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らての台本置き場

はじまめして!らて@放浪作家です! このサイトはシナリオライターのらてが執筆したシナリオを置いておく場所になります。 声劇や劇団のインプロ、演劇部の上演に使っていただいても構いません! 皆様こぞってご上演ください! ※上演前に必ず利用規約をお読みください

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