女子アナの機転【1:1:0】
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0:テレビ局の休憩スペース、ポップな色のスツールが並び、壁にはドラマやライブのポスターが掲示されている。
0:と、奥の廊下から私服の泉が颯爽と歩いてくる。
泉:お疲れ様でーす
0:泉が画面の外に出そうになった時、同じ廊下から大島が泉を追いかけてくる。
大島:泉ちゃあん
泉:あ、大島さん、お疲れ様です
大島:いやーほんと、お疲れさまねー
泉:あはは
大島:まさかあんな事になるとは思ってなかったけど、ほんと、ナイスアドリブだったよー
泉:いえいえ、私もびっくりしましたけど、まぁ、なんとか
大島:まぁ、あとの対応はこっちでやるからさ
泉:対応?
大島:電話よ、電話
泉:え、まだ架かってきてるんですか
大島:もう全国の印刷会社から・・・放送後からなりっぱなしよ
泉:そうですか・・・なんか、すみません・・・
大島:いやいやいやいや!泉ちゃんのせいじゃないし、別にクレームの電話ってわけじゃないからね
大島:グッジョブグッジョブ
泉:ありがとうございます
大島:泉ちゃん、これから帰り?
泉:ええ、もう出ようと思ってました
大島:どう、この後、これっ(居酒屋)
泉:あー・・・ははは・・・
大島:泉ちゃんもいろいろたまってるだろうから、ね、ちょっとだけさ
泉:あーいや、でも、今日はもう、帰ろうかなって
大島:えー?そうなのー?
泉:すみませんっ
大島:えー、ちょっとだけならいいじゃーん
泉:ええ、まぁ、はぁ・・・
大島:ね、ちょっとだけ!
泉:うーん・・・
大島:泉ちゃんパラ森(番組名)終わって現場ないの久々っしょー?
泉:え?
大島:聞いたよー、Aスタジオの件
泉:ああ・・・
大島:担当してたディレクター、俺の同期だったんだけどさぁ、一発でこれ(クビ)だってさ
泉:ええ・・・?そうなんだ・・・
大島:まぁしかたないよねー、スタジオ全焼なんて前代未聞だもんねぇ
泉:まぁ、そうですよねぇ
大島:ってわけで、現場もないし、ね?ちょっとだけ!
泉:はぁ・・・
大島:ガッチャ!(英語で「やった!」の意味)
大島:ちょうどいい店見つけたんだよぉ
大島:ちょーっと駅から遠いんだけど、ビールが面白くてさ
大島:こーんなタワーになってくるんだけど、もう大迫力?
大島:いやちがうな、だぁあああい、はぁぁぁく、りょおおおおく!
大島:いや、これも違うな
大島:だぁぁぁぁい!
泉:大島さん!
大島:ん?
泉:あの・・・
大島:なになにどったの
泉:あの、私やっぱり今日はその・・・
泉:帰ろうかなって・・・
大島:えーーーー、ぶーぶー!
大島:ぶーぶークッション量産だよぉ泉ちゃぁん!
泉:は?
大島:ん?
泉:あ、いえ
大島:頼むよぉー、しがないディレクターの一生のお願いだから!お願いっ!
泉:いやぁ・・・
大島:だって、予定ないんでしょー?
泉:うーん・・・
大島:あらっ、もしかして、彼氏?
泉:え?
大島:彼氏なのー?彼氏がいるのー?
大島:スキャンダルだよー!これはスキャンダルだよー!
泉:あ、いや、そういうんじゃないんですけど・・・
大島:ならなんなのー、なんにもないなら付き合ってよー
泉:えーっと、その・・・
大島:んー?
泉:あ、犬がいるんです
大島:へ?
泉:犬
大島:犬?
泉:はい、犬、知ってます?犬
泉:四つん這いで歩くんですけど、毛とか生えてて・・・
大島:ちょ泉ちゃぁん
大島:さぁすがに犬は知ってるよぉ!
泉:あ、そうですか?よかった
大島:そっかー犬がいるのかー
泉:ええ、だから、その、今日は、ほんとに申し訳ないんですけど、帰りますね
泉:(ゆっくり帰ろうとしながら)すみません、ほんと、はい、失礼して、お疲れさまでした、はい
大島:・・・え?
泉:はい?
大島:なんでなの?
泉:な、なにがですか?
大島:犬がいると、なんで飲めないの?
泉:え?それはその、餌とか、水とか・・・
泉:私がいなかったらさみしがると思いますし・・・
大島:ああ、そういうこと
泉:ええ・・・
大島:そっか
泉:はい・・・
0:間
大島:そんなことかー!
泉:え?
大島:なーんだなんだ、そんなことか!
泉:え、あの
大島:そういうことなら早くいってよー!もー!水臭いんだからー!
泉:あの、大島さん?
大島:(多少食い気味に)行くよ
泉:・・・はい?
大島:行くよー!行くよ行くよ行っちゃうよぉ
大島:犬も見たいし、こういうご時世だしね、宅飲みしちゃおっかー!
泉:え、えっとあの、え?うちに来るってことですか?
大島:行くよー!だって、泉ちゃんの家、この辺でしょ?
泉:え、ええ・・・まぁ・・・
大島:なら、居酒屋で飲んでも、泉ちゃんの家で飲んでも一緒じゃない?
泉:あー、いやー
大島:大丈夫大丈夫!お酒とかそういうの、奢るからさ!
泉:あの、大島さん
大島:ん?
泉:あの、いや、うちはその、だめっていうか
大島:え?だめ?
泉:はい、その・・・うちはあの、だめなんですよ
大島:え、なんで?
泉:いやだからその、なんというか、ね
泉:あのー、きー
大島:き?
泉:んっと、きー、たない、汚いんです。
大島:汚い?
泉:はい、結構汚れてて、すごいから、人とか呼べるレベルじゃないんですよ、実は
大島:え?泉ちゃんち汚いの?
泉:ね、意外ですよねー、自分でも意外ですもん、汚いんですよー、やんなっちゃいますよねー
大島:そうなんだ
泉:うんうん、だから、今日はもうね、はい、帰らないと・・・犬もいるし
大島:じゃー、手伝おっか
泉:え?
大島:うん、手伝おう、そうだそれがいい、手伝う手伝う
泉:え、何をですか?
大島:掃除?
泉:掃除・・・
大島:そんな汚くちゃ、泉ちゃんの体調も心配だからねー!
大島:うちの看板アナウンサーに、病気になられちゃあ、番組の存亡の危機だって、ね
大島:だから、うん、手伝うよ、手伝う手伝う
泉:あーあの、無理です
大島:え?
泉:無理です
大島:無理?
泉:はい
大島:なんで?
泉:なんか、そういう、大島さんが想像してるような汚さじゃないんですよ
大島:ん、どゆこと?
泉:だからその、大島さん、ゴミとか、汚れとか、そういうの想像してるでしょ?
大島:え、まぁ、うん
泉:そういうんじゃないんです、うちの汚さって
大島:・・・どゆこと?
泉:だからそのー、なんというか、概念として汚いというか、そのー
大島:概念?
泉:だからその、ほら、都会の空気とかって、よく、汚いなーっていうじゃないですか
大島:う、うん
泉:そういう、イメージとしての汚さというか、その、外、的な?
大島:外?
泉:あー・・・はい、外なんです
大島:え、なにが
泉:家が
大島:家が、外なの?
泉:はい
大島:え、家が、外なの?
泉:そうです
大島:外に住んでるってこと?
泉:はい
大島:犬も?
泉:はい、犬も外です
大島:名前は?
泉:ラッキー
大島:犬種は?
泉:シベリアンハスキー
大島:シーーベリアンハスキー外にいちゃあまずいんじゃないのー?
泉:いやいや、大丈夫ですよ、専用区域なんで
大島:せ、専用区域?
泉:はい
大島:・・・なんの?
泉:外(そと)シベリアンハスキー専用区域
大島:・・・外シベリアンハスキーってなに
泉:とにかく
泉:私は外に住んでて、しかもその区域はシベリアンハスキーしか入れない区域なんで、はい、飲みとかは、無理ですね、実質
大島:ん?
泉:なんですか
大島:シベリアンハスキー専用区域ってことはさ
泉:はい
大島:泉ちゃんも入れないんじゃないの?
泉:あっ
大島:ん?
0:間
泉:どうも、シベリアンハスキーです
大島:えっ
泉:わんわん
大島:い、泉ちゃん?
泉:あー、ドックフード食いてぇぇぇ
大島:え、ちょ、泉ちゃん?
泉:あー、なんか、マーキングとか、電柱とかに、してぇぇぇぇ
大島:泉ちゃん!
0:少しの間
泉:なんですか
大島:え?泉ちゃんってシベリアンハスキーだったの?
泉:はい
大島:シベリアンハスキーって、犬だよ?
泉:知ってますよ
大島:犬なの・・・?
泉:はい
大島:え?人間だよね?
泉:犬ですよ、なに犬なのに人間とか言ってるんですか
大島:え、でも
泉:私が犬って言ってるのになんで人間とか言ってくるんですか
泉:そういう決めつけがメディアを腐らせるってネットの記事に書いてありましたよ
泉:そうやって犬とか人間とか差別して、偏向報道ばっかりしてると、視聴者に見放されますよ
大島:ごめん・・・
泉:大島さん、どうしたんですか、新卒で、キラキラしてたあの頃の大島さんはどこ行っちゃったんですか
泉:メディア業界に新しい風を吹かすのはあなたでしょう?
大島:お、俺が?
泉:そうですよ!
泉:何色にも染まらない番組制作があなたの強みじゃないですか!
泉:それを「犬だから」「人間だから」って動物の種類で差別して、犬がそんなに悪いですか?
泉:犬には番組を作れないんですか?
大島:いやでもそれは・・・
泉:(きっぱりと)YESかNOで答えてください。
泉:社内でいっちばんリベラルな発想を持ってる、TAR(ティーエーアール)の未来を担う敏腕ディレクターに問います。
泉:犬に番組が作れますか?作れないですか?
大島:それは・・・作れる・・・
泉:よく言った!よくぞ言いました!
泉:ということは?犬とか人間とかは関係ー?
大島:ない・・・?
泉:そうなんですよ!私が犬だったことを、今、あなたは知った
泉:最初動揺してたあなたも、今こうして生まれ変わりました
泉:でも、正直私も申し訳ないとおもってるんです
泉:だって、私はずっとみなさんをだましてたわけですから
泉:自分を人間と偽って仕事をしてましたからね
泉:でも、ほんとは、シベリアンハスキー専用区域に住む、一匹のシベリアンハスキーだったんです
泉:黙っててすみません
大島:いや、しかたないよ
泉:どう、仕方ないですか?
大島:だってその、世間は、犬に番組なんて作れないと思ってるし、犬だからっていうだけで局での風当たりも変わるだろうし・・・
泉:そうなんです・・・だから、ずっと言い出せなかったんです・・・
大島:つらかったね、泉ちゃん・・・
泉:はい・・・
大島:でも大丈夫!
泉:なにが、ですか・・・?
大島:俺が、泉ちゃんを、日本一のアナウンサー犬(けん)にする!
泉:そんな、そんなことが出来るんですか・・・?
大島:できる、できないじゃない、やるんだよ!
大島:ジャスト、ドゥー、イット!
大島:世間の目?気にすんな!泉ちゃんには俺がついてる!
大島:来週も、最高の番組を作って、お茶の間を沸かす!
大島:たとえモニターに映ってるアナウンサーが、犬でも、人間でも、面白い番組を作りゃ俺らの勝ちなんだから!
泉:(目を故意的にうるませて)お、お、大島さん・・・!
大島:よぉし、そうと決まれば来週の企画だ!
大島:泉ちゃんのおかげで目が覚めた!今のTAR(ティーアールエー)をぶっ壊すような、面白い番組を作るんだ!
泉:大島さん!かっこいいです!
大島:へへんっ、言ってくれるな!
大島:番組がハネるまで、俺はまだまだ口だけディレクターだ!
大島:(廊下のほうへ歩いていきながら)やるぞー!
泉:あ、ディレクター!どこへ行くんですか!
大島:決まってるだろ、仕事だよ
大島:就業時間なんて固定観念持ってたら、面白い番組は作れないっつーの☆
泉:大島ディレクター!
大島:じゃ、気を付けて帰るんだゾッ
大島:未来を担う、弊社の看板犬!
泉:どうも、ありがとうだワン!
大島:ふふっ!それじゃ、アデュ☆
0:いなくなる大島。少しの間。
泉:はぁ、疲れた
泉:ったく、めんどくさいなーほんと
泉:はぁぁぁ・・・辻褄合わせるの大変だろうなぁ・・・
0:と、いきなり戻ってくる大島
大島:あ、泉ちゃん
泉:はっ!
泉:な、なんだワン?
大島:来週の楽屋弁当なんだけど、ドックフードに変えようか?
泉:あ、それは普通でお願いします
0:暗転
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