崩壊家族 [2:2:0]
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0:とある一軒家のリビングルーム。
0:家族4人、テーブルを囲んでいる。
0:テーブルの中央にはぐつぐつと鍋が煮えており、
0:もうもうと立ち昇る煙が天井にあたっては消えていく。
0:物語は4人がテーブルに着き、静寂の状態から始まる。
姉:翔太、ちゃんと手あらった?
弟:洗ったよ
母:美香、足、行儀悪い
姉:はーい
父:あー翔太、しょうゆ取って
弟:え?
父:いや、しょうゆ、そっちにあるだろ
母:あなた、せめて一口食べてからにしてよ
父:まぁ、いいじゃないか
弟:はい醤油
父:ん、ありがとう
姉:鍋に醤油っておいしいの
父:試してみるか?
姉:いや、いい、まずそうだし
父:そうかー?案外いけるぞ
母:いけないわよ
母:じゃあ、みんな揃ってるね
父:はいはい
姉:うーん
母:美香、携帯やめなさい
姉:・・・はぁ(携帯を置く)
姉:はい
母:はい
母:それじゃああなた
父:あ、うん
父:いただきます
3人:いただきます
0:間。
0:しばらく皿を動かしたり箸を持ったりするカチャカチャという音が聞こえる。
父:翔太なにがいい、お父さんよそってあげるよ
弟:肉と、えのき
弟:ネギは入れないでいいよ
母:こら、好き嫌いしないの
父:まあ、いいじゃないか、今日くらいは
父:肉と、えのきと・・・白菜は?
弟:あーうん、じゃあ白菜も
父:はい
弟:ありがと
父:はいはい
父:美香は?
姉:私は・・・スープだけでいいや
父:ええ?スープだけ?
姉:うん
父:だめだめ、お肉食べないと
姉:いや、いらない
父:なんだ、ダイエットか
姉:いや別にそんなんじゃないし
父:無理なダイエットは体壊すぞーほら、肉肉
姉:あーもうほんといらないって
母:美香、食べときなさい、最後なんだから
0:間
父:はい、美香
姉:(受け取って)ん・・・
父:母さんは?
母:私は、まあ、バランスで
父:はいはい、バランス、バランス
父:あちち
父:はい、母さん
母:なにこれ、シラタキ多くない?
父:母さんシラタキ好きじゃないか
母:まあ、好きだけど・・・
父:今日くらいは、我慢しないで、好きなもの食べようよ
母:・・・ありがと
母:貸して、お父さんは?
父:ああ、お父さんも翔太と一緒で
母:ネギは?
父:いらない
母:そうなの?
父:うん、あんまり好きじゃないからね
弟:え?お父さんもネギ嫌いなの?
父:実はな
弟:えーずるくない?僕には食べろって言ってたくせに
父:大人の事情ってやつだ、翔太にもいずれわかる日が来るさ
姉:来ないでしょ、そんな日
父:ええ?
母:美香、いい加減にしなさい
姉:・・・なにが?
母:いつまでぶー垂れてるのよ、全員納得してここにいるんだから、子供みたいにしてないの
姉:別に、納得してないから
父:美香・・・今からでも間に合うぞ?友達んところ行くか?
姉:いいよ、別に、もう間に合わないし
父:そっか
0:間
父:まあ、でもな、ずっと家族でやってきたんだ
父:たまには仲良く、な、一緒に鍋囲んで、思い出ばなしでもしよう!な!
姉:別に、思い出なんてないけど
母:美香
父:あーはいはい
父:母さんもいいから
父:美香がそういうと思って、お父さんこんなの用意しましたー
0:と、父が足元から一冊のアルバムを取り出す。
父:じゃーん
母:うわ、なつかしい、どこにあったのこんなの
父:子供部屋の天袋だよ
弟:なにそれ
父:写真、お前等嫌がるだろうからお父さんが隠しておいたの
弟:へー
母:えー見せて見せて
弟:どんな?
父:えっとねー、まずはー、おーこれとか
父:題して、第一子、美香、爆誕
姉:やめてよ
弟:え、これねーちゃん?
母:そうそう、あらーかわいー
姉:やめてって
母:いいじゃないの、ほら、美香も見てみなよ
姉:見ない
母:美ー香
母:お願い、一緒に見ようよ
姉:・・・(嫌々アルバムに目を向ける)
姉:ぷっ、あははははは
姉:なにこれめっちゃ不細工じゃん
父:えーそうかー?めちゃめちゃかわいいじゃないか
母:めちゃめちゃかわいいわね
母:で、これが翔太
弟:うわ、え、ねーちゃんとほぼ一緒じゃん
父:そうだなー最初は確かに似てた
姉:いや似てないでしょ、翔太の方がブス
弟:ブスじゃないよ
姉:ブスだってほら、アゴがこーなってる
弟:やめてよ
姉:(二重アゴにして)ハジメマシテ、ショウタデス
弟:やめてって!
姉:あはははは
母:でもさ、こうやって見てると、今も昔も、変わらないわね
父:ああ・・・
0:間
弟:ねーちゃん、今何時?
姉:んっと、10時47分
母:あら、もうそんな時間
父:いよいよ、だな
姉:うん・・・
父:まあほら、しめっぽいのはやめにしよう
父:工藤家家訓!どんな時にも前向きにってな!
母:ふふ・・・そうね
父:ほら、見ろ、これ、北海道旅行
母:うわー懐かしいわねー、覚えてる?
姉:うん・・・覚えてるよ
弟:北海道?
母:翔太もいたのよ、ほらこれ
弟:ほんとだ
父:美香の面倒見が良くてな、ずっと翔太の事気にしてたもんな
姉:そうだった?
母:そうよー、ほんと、助かったわ
姉:うん・・・なつかしいね
父:ああ・・・
0:間
父:次はー、
父:ああ、ここからは山登りゾーンだな
姉:よく行ったもんね
母:これ、赤城山(あかぎさん)?
父:そうそう
弟:これは覚えてる
姉:翔太へばってたもんね
弟:へばってないよ
姉:嘘ー、途中で息上がっちゃって「休みたい」ってくずってたじゃん
母:あはは
弟:もー・・・
父:結構キツかったもんな、翔太幼稚園生だったのに、よく頑張ったよ
弟:まあね
母:麓に戻って食べたアイス、最高だったよね
父:ああ、うん
姉:あれおいしかったー!
弟:疲れてるから、余計ね
母:それで、翔太がアイス落っことしちゃって、泣いちゃって
父:うん?
弟:あれはショックだった
姉:あはは
父:あの・・・
母:ん?
父:・・・いや、なんでもない
父:えっとー次はー
父:お、これ前の家だ
母:藤井コーポね、ボロ家
父:懐かしいなあ
弟:僕ここの記憶あんまりないんだよね
姉:まぁ、翔太ちっちゃかったもんね
弟:うん
母:あー!この部屋!懐かしー
弟:なに?
父:ここはー、物置部屋だな
母:そうそうこの部屋ね普段は物置として使ってたんだけど、
父:うんうん
母:お父さんが仕事に行ってる時に、お母さんが他の男の人といろんなことしてた部屋なの
父:うんうんうん・・・ん?
姉:へーお母さんも案外やるねー
父:ん?涼子?
母:特に208号室の玉井さんとは何度もこの部屋で愛し合ったわー
父:え?ちょ、涼子?
母:なつかしいわねーもう10年経つのかあ
父:涼子!
母:・・・なによ
父:・・・え?お前浮気してたの?
母:そうよ?
父:物置で?
母:そうよ?
父:俺がいない間に?
母:そうよ?
父:・・・え?なんでそんな堂々としてるの?
母:だって、いいじゃない過去の事なんだし
母:それに今更、隠し事したって無駄でしょ?
姉:地球滅ぶしね
父:あ、ああ、うん
母:ほらあなた、次次
父:うん・・・次・・・
父:えっとー、これは、美香の誕生日だな
姉:わあ、これ私いくつ?
父:13歳
姉:ぶさいくだなーわたし
母:お姉ちゃんの誕生日なのに、ほとんど翔太がケーキ食べちゃったんだよね
弟:ぐっ・・・それは、ごめんなさい
姉:あはは
母:美香偉かったよね、ちゃんと譲ってあげて
姉:だって、泣くんだもん、さすがの私も根負けしたよ
弟:ぐぅぅぅ・・・
母:ほんと、美香にはずっと我慢させちゃってたよね
父:ああ、そうだな
姉:いや、そんなこともないよ
父:そうか?
姉:だって、この後彼氏に祝ってもらったし
父:ん?
母:ゆうきくんでしょ?急にウチくるからびっくりしたわよ
父:うん?
弟:あの人が一番イケメンだったよね
父:美香?
姉:失礼だな、男は顔じゃないってわかったの
父:あの、美香?
姉:ん?なに?
父:・・・え?彼氏いたの?
姉:うん、いたよ
姉:てか今もいるよ
父:え・・・?
父:えええええ・・・・
父:えええええええええええええ!
姉:うるさいなあ!
父:いやいやいや!ええええええ!
父:なに、なにそれ、お父さん知らないんだけど、え、お父さん、えええええええ!
母:あなた、ご近所迷惑よ
父:いやいやそれどころじゃないでしょ!えええええ・・・
父:え?涼子?お前浮気してたの?
母:そうよ
父:で、美香は彼氏がいた・・・っていうかいるの?
姉:そうだよ
父:え、え、えぇぇぇぇ・・・
父:そんなの、えぇぇぇ
母:どうしたのよ
父:だってぇ・・・お父さん聞いてないよー・・・
母:そりゃそうよ、言ってないもの
姉:うん、言ってないからね
父:え、ええええ、なんで言わないの?
姉:だって言ったらお父さん怒るじゃん
父:そーんな、おこーーーーー
父:るけどぉ・・・えええ、でも、今言う?
父:そんな、ねえ、もうすぐみんなほら、消えるんだし、最後まで言わなきゃよくなーい?
母:そんなのもやもやするじゃない
母:(姉に)ねえ?
姉:うん、隠し事があるまま死ぬの嫌だし
父:いやいやいやいや、そんな事実こんな間際に言われて、え?お父さんの方がもやもやするって
母:ならあなたもカミングアウトすればいいじゃない
父:ええ?
母:あなたも、隠し事バラせば、フェアじゃない?
父:あ、ああ、うん
姉:なになに?何隠してるの?
父:あーえっと・・・そうだなぁ・・・
父:えっとー・・・2年前・・・
母:うん
父:その、一回だけ・・・キャバクラに・・・行きました・・・
姉と母:(拍手しながら)おーー
0:間
母:どう?すっきりした?
父:しないよ!!!
母:なんでー
父:だって、なんか、お前等のヤツに比べて薄いじゃん!
姉:そうかなあ?私は十分「きもっ」て思ったけど
父:余計やだよー・・・
父:だってぇ・・・そんな、秘密とかないよべつにー
母:真面目ね
姉:真面目だ
父:ええーー・・・
父:そうだ!翔太!お前は俺と一緒だよな!
父:この期に及んでカミングアウトとか・・・
弟:象牙を密売しています
父:は?
弟:象牙を密売しています
父:ん?翔太?
弟:象牙を密売しています
父:あれ?翔太?壊れた?
弟:象牙を・・・
父:あーもういい!頭おかしくなるって!
弟:・・・
父:え?象牙?
弟:うん
父:え?象牙がなんだって?
弟:象牙を密売しています
父:もうそれはわかったって!どういう事なの!
弟:ええ・・・?
弟:えっと、不法に輸入された象の牙を、業者に売って、お金を稼いでるの
父:誰が
弟:僕が
父:いつ
弟:ずっと
父:どこで
弟:大磯(おおいそ)中央公園で
0:間
父:えぇー・・・
父:そんなことあるぅー・・・?
母:あなた、みっともないわよ
父:だってぇ・・・
父:いままで一緒に生きてきたじゃぁん・・・
父:最後の最後で、えぇ、そんなことってあるぅ・・・?
弟:あと何分?
姉:えっとーあと2分
母:ほらあなた、しっかりして、あと2分だって
父:もういいよぉ・・・隕石でもなんでも降ってくればいいんだよ・・・
母:ほら起きて、はい、ここ座って
父:んむぅ・・・
母:みんないい?
姉:うん・・・
弟:うん
父:うなぁ・・・
母:あなた
父:・・・はぁい
母:はい
母:これまでいろんなことがあったけど、これで地球もおしまい
母:お母さんは、みんなと一緒に入れてよかった
父:ううん・・・
母:あと浮気も最高にスリリングだった
父:おい!
母:美香は?
姉:彼氏大好き
父:美香ぁ!お父さんは認めないからな!
母:翔太は?
弟:この中の誰より金稼いでる
父:翔太!金っていうな!お金っていいなさい!
母:わかった
母:あなた、最後に何かいう事は?
父:えぇ・・・?
父:えー・・・
父:・・・来世はトカゲに生まれたいです
母:はい、じゃあ目をつぶって
父:あーちょ!ごめん!最後の言葉間違えた!
母:みんなと出会えてよかったわ
姉:お母さん・・・
弟:ふふ・・・僕もだよ
父:神様!トカゲ以外で!トカゲ以外でお願いします!
母:残り10秒
母:9、8、7、6、5、4、3、2、1
0:間
アナウンサー:えー緊急!緊急速報です!
アナウンサー:地球に衝突目前だった隕石ですが・・・え?あぁ、はい、えー
アナウンサー:謎の引力により、奇跡的に衝突軌道をはずれた模様です
アナウンサー:地球は、隕石を、免れたようです!
アナウンサー:繰り返します、隕石は衝突しません!隕石は、衝突しません!
0:間
父:え?
母:さ、寝る時間よ、美香、翔太、歯磨きしなさい
姉:はーい
父:え?え?
弟:おとーさん今週末一緒にサッカーしよー!
父:え?いや、無理だって
姉:あれ?私の歯ブラシ何色だっけ?
弟:黄色でしょ
姉:あそっか
父:いやいやいやいや
母:あなた、明日のお弁当何がいい?
父:えっと・・・しゃけ
母:はいはい、しゃけね
父:って違う!この浮気女!
母:え?何の話?浮気なんてするわけないじゃない
父:むりむりむり!!もーむりだって!
母:じゃあ私、しゃけ買ってくるわね
父:ちょ、今夜中だぞ!スーパーあいてないって!
弟:ねーねーおとーさん、サッカー、日曜仕事休みでしょ?
父:え?ああ、うん
弟:よっしゃ
父:いや待て!この密売息子(みつばいむすこ)!
弟:じゃあ、おやすみー
父:おい!おい翔太!
姉:ねえお父さん、私大学行く
父:びっくりしたぁ
姉:いいでしょ?
父:ああ、うん、美香の好きにしなさい
姉:やった!お父さん大好き!
父:よしよし
父:・・・いやよしよしじゃなぁい!まだ彼氏なんて早いですからね!お父さん認めませんからね!!
姉:じゃあ私受験勉強あるから
父:おい美香!待て!
父:おい!おーい!
0:静かになったリビングに一人残される父。
父:え?
父:えー・・・
父:滅べばよかったのに、地球
0:暗転
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