生ネメス [0:0:2]
0:講師が黒板の前に立っている
0:マンツーマンレッスンのようで、生徒が1人緊張した面持ちで講師を見つめている。
講師:はい、それでは挨拶から
講師:おはようございます
受講生:お、おはようございます
講師:はーい緊張しなーい
講師:おはようございます
受講生:おはようございます
講師:はーいおはようございます
講師:はじめまして、わたくしボイストレーナーをしております、神林(かんばやし)と申します。
講師:はい自己紹介どうぞー
受講生:・・・えっ
講師:あなたですよー
受講生:あ、え、わたしですか
講師:そうですよー
講師:この教室にはわたくしと、あなたしか居ませんからね
講師:はーい、じこしょーかーい
受講生:あっ、は、はい、えっと、あの、原田楓(はらだ かえで)と申します。
講師:はい原田さんよろしく
受講生:あ、はい、えっと、よ、よろしくおねがいします!
講師:はい緊張しなーい
受講生:はーい緊張しなーい
講師:うん、別に真似しなくていいですよ
受講生:あ、はい、すいません
講師:はいはい
講師:それじゃあ時間もないから、さっそくレッスン入っていきたいんですけど
講師:原田さんはどうしてボイストレーニングしようと思ったんですか?
受講生:あ、はい、えっと、わたし、声優に、その、なりたくて
講師:声優?
受講生:えっと、アニメとか、映画とかに声をあてる職業で・・・
講師:ああはい、声優はわかりますよ
講師:どうして声優になりたいって思ったんですか?
受講生:アニメです、好きなアニメの声優さんが好きな声優さんでその・・・
講師:なんて人?
受講生:須藤幸田(すどう こうた)さん・・・
講師:あー須藤君ですかー
受講生:え、し、知ってるんですか!?
講師:ええ、昔教えたことがあるので
受講生:え、すごい!わたし須藤さんすっごい好きで、なんか演技の幅とか見ててすごいなって思うし、私もああなれたらなって思って、それじゃあとりあえずボイストレーニングからかなって思ったからここに連絡して、そっか、須藤さんって神林先生の弟子だったんですね、となるとわたしって須藤さんの弟弟子(おとうとでし)になるってこと?え?それってすごくないですか?すごくないですか!?
講師:ストーップ、ストップストップ
講師:弟子ってほどじゃないですよ
講師:須藤さんのお仕事で、ミックスボイスの練習をするっていうから、私が呼ばれて教えたんです
受講生:えっと、ミックスボイスってなんですか?
講師:まあ、そのあたりも、おいおいですね
受講生:あ、はい!すみません!よろしくお願いします!
講師:はーいよろしくー
講師:じゃあまず、どんな風になりたいかっていう、モデルを見つけるところからなんですけど
受講生:はい
講師:まあ、原田さんの場合は須藤君を目指すってことでいいんですよね?
受講生:はい!
講師:はいはい、おーけーおーけー
講師:それじゃあまず分析からしていくわけなんですけど
講師:須藤君の声、どんな声だかって、言葉で説明できますか?
受講生:どんな声か・・・
講師:そうそう、太いのか、細いのか、高いのか、低いのか
講師:そういう声の性質を言語化しておくと、あとあとトレーニングの指針になりますからね
受講生:なるほど・・・
受講生:えっと・・・ミルウィーキーの時は・・・高くて、それでいて厚みのある声でした・・・
講師:はいはい
受講生:遠くまで響くような、それでいて鼓膜に突き刺さるような声です・・・
講師:いいねいいね
講師:それから?
受講生:それから・・・あ、そうだ
受講生:活舌がすごいなって思ったんです
講師:おっ
受講生:えっと、ミルウィーキーがコスモガンの説明をするところ
受講生:機能説明とかペラペラしゃべるところ、とっても聞きやすくて、かっこいいなって思いました
講師:うんうん!
講師:いいね!
講師:そうなんですよ、彼の良さはそこにあるんです
講師:もちろん声の質感も大事なんですけど、私も彼の強みは活舌だと思います
講師:彼の発声は多少前のめりな所があるんですが、活舌がいいからちゃんと聞ける
講師:たとえば、車
講師:どんなに良いエンジンを積んでいて、どんなに車輪を速く回せても
講師:タイヤの真ん中に軸が刺さってなかったらどうなりますか?
受講生:えっと、遠心力で、がたがたっと・・・
講師:そう!シャーシに余計な負荷がかかって車がまっすぐ走らなくなっちゃうでしょう?
講師:発声法や声質がエンジンだとすると、彼の活舌はその軸の部分にあたるんです
受講生:ほおー、なるほど・・・(メモを取る)
講師:つまりね、どんなに声質や発声法を鍛えても、この活舌の部分がなければ声の仕事はやっていけない
講師:そして、わたしの授業ではこの活舌を優先して習得してもらいます
講師:普通ボイストレーニングでは声の出し方、つまり発声法から身につけるんですけど
講師:活舌の悪い状態での発声に慣れてしまうと、あとあと活舌を強制する時に苦労する
受講生:なんか・・・わかる気がします・・・
講師:だから、最初は声が小さくてもいいから、活舌を完璧にマスターしましょう
受講生:声が小さくてもいいんですか?
講師:うん、最初はね
講師:とにかく、力を入れずに、日本語を、日本語として、しっかりと発声できるようになってから
講師:声質や発声法はそのあと考えればいいですから
受講生:なるほど・・・なるほど・・・(メモを取る)
講師:これを、私は神林メソッドと呼んでいます
受講生:神林メソッド・・・
講師:ああ、そこは別に、メモらなくていいですよ
受講生:あ、ああ、すみません
講師:あ、まあ消さなくてもいいんですけど(笑)
受講生:ああ、はい
講師:はい・・・書けました?
受講生:はい!書けました!
講師:いいですね
講師:とりあえず、原理は分かってもらえましたか?
受講生:はい、とにかく、ちゃんと言葉を話せるようになるって事ですよね
講師:そうそう、まずは足回りをしっかりさせるところから始めましょう
受講生:はい!
講師:じゃあ、実際のレッスンに入っていきますけど、いいですか?
受講生:お願いします!
講師:途中、もしキツくなったら無理せず休憩しましょうね
受講生:あ、はい
講師:お水飲みます?お手洗い大丈夫ですか?
受講生:はい!大丈夫です!
講師:はいおっけー
講師:じゃあ、そこにイス出しておいたから、とりあえず座ってください
受講生:はい・・・(座って)えっと、これでいいですか?
講師:ああ、そんなにかしこまらないで、あくまでリラックスして
受講生:わかりました、はい
講師:うんうん、いいですね
講師:まずは余計な力を入れずに、口元の筋肉の使い方をマスターしていきましょう
受講生:おねがいします
講師:はーい
講師:それじゃあ、最初は、普通に早口言葉から行きましょうか
受講生:早口言葉・・・ですか
講師:ベタだなーって思ったでしょ
受講生:い、いえ・・・
講師:いいのいいの
講師:でもね、ベタって言葉ってベター、つまり「より良い」方法って事でしょ?
講師:なら今一番ベターな方法が、ひいてはベストな方法ってことなんです
受講生:なるほど
講師:あ、それも別にメモらなくていいですよ(笑)
受講生:ああ、すみません・・・(笑)
講師:いいね、リラックスしてきました
講師:それじゃあそのリラックスしたまま、わたしの後に続いて言ってみましょう
受講生:わかりました、おねがいします。
0:間
講師:なまねめす ハイッ
受講生:なまねめす
0:間
講師:なまねめす、まに、なまねめす、もす ハイッ
受講生:なまねめす、まに、なまねめす、もす
0:間
講師:なまねめす、もして、なまもねめす、まなす、めすもす ハイッ
受講生:なまねめす、もして・・・なまもねめす・・・
講師:なまねめす、もすもし、ねまなまねめす、ねむす ハイッ
受講生:あの、先生
講師:なまのなまねめす、ねむねむし、ねます ハイッ
受講生:先生?
講師:もさのなまねめす、のます、ねもすもすもす ハイッ
受講生:あ、ちょ、先生
講師:ネバネバなまねめす、のまします ハイッ
受講生:先生!
0:間
講師:どうしたんですか?
受講生:えっ
受講生:いやあの・・・
講師:原田さん、これは最初に言おうと思ったんですけど
講師:こういうのは思いきりが大事なんですよ
講師:個人の性格も、もちろんあるかと思いますが
講師:ボイストレーニングに来た以上は
受講生:気持ち悪いです
講師:え?
受講生:いや、気持ち悪いです、なんですか「なまねめす」って
講師:なんですかって・・・なんですか?
受講生:いや知らないですよ、なんなんですか
講師:意味なんてありませんよ、活舌練習なんですから
受講生:あ、そ、そうなんですか?
講師:ええ、こういうのは舌を運動させるために言いにくい文章になってるんですよ
受講生:はぁ・・・
講師:そのために作られた文章なので、まあ、意味なんてあってないようなもんなんです
受講生:なるほど・・・?
講師:わかりましたか?
受講生:は、はい・・・わかりました
講師:よろしい
講師:それじゃあ、続きから
講師:サンハイ
講師:ぐしゃのなまねめす、なさにしょぞく、なみのり、なす ハイッ
受講生:ぐしゃのなまねめす、なさにしょぞく、なみのり、なす
講師:なのましーん、めざす、なまねめす、もす、のす、ほす ハイッ
受講生:なのましーん、めざす、なまねめす、もす、のす、ほす
講師:だんじりの、なまねめす、なにもしめず、もさず ハイッ
受講生:だんじりの・・・なまねめす・・・
講師:もすもすの、もね、なまねめすに、のます、なす ハイッ
受講生:先生?
講師:めそすめそす、もせすがら、めす ハイッ
受講生:先生!
講師:にぼす ハイッ
受講生:おい神林
講師:びっくりした・・・なんですか
受講生:いや、びっくりしてるのはこっちなんですけど
講師:どうしたんですか
受講生:あの・・・言いやすいですよね
講師:え?
受講生:ぐしゃのなまねめす、なさにしょぞく、なみのり、なす・・・めちゃめちゃ言いやすいじゃないですか
講師:えー?そうですか?
受講生:そうですよ
受講生:あとやっぱり気になるんですよ、なんですか「なまねめす」って
講師:生のネメスですよ
受講生:・・・ネメスって?
講師:ネメスはネメスですよ、ながーい体に四本の脚、頭部にはおびただしい数の、目が、こう、うじゃあああああ
受講生:気持ち悪い!!!
講師:なんですかさっきから・・・
講師:あのね、文句があるならやめてもいいんですよ、私以外にもボイストレーナーは居るわけですし・・・
受講生:いや、その、先生のメソッド自体はすごいなって思うんですよ?
受講生:言ってることの一つ一つは説得力ありますし、たしかにって思うんですけど
講師:じゃあいいじゃないですか、何が気にくわないんですか
受講生:だから、活舌練習の文章が気持ち悪いんですって
講師:ええー?気持ち悪いですかあ?
受講生:それに言いやすいんで、あんまり練習になってる気がしなくて
講師:うーん・・・須藤君もやったんだけどなあ、これ
受講生:まじか
講師:いやですか?
受講生:ええ、まあ、正直・・・
講師:そうですかあ
受講生:そこだけなんとかなりませんか
講師:うーん・・・わかりました、じゃあ別のやりましょう
受講生:別の、ですか
講師:はい、これも早口言葉系なんですけど、アメンボってご存じですか?
受講生:あ!アメンボ赤いなあいうえお!ってやつですよね!
講師:そうそう、それです
受講生:そうそう!そういうのですよ!そういうのが「ぽい」じゃないですか!
講師:それ、やりましょう
受講生:なんだー普通のもあるんじゃないですかー
講師:まあ、何が普通かわかりませんけどね(笑)
受講生:やりましょう!はりきってやりましょう!
講師:わかりました、じゃあとりあえずこれ原稿なんですけど
受講生:やったー!えっと、なになに
0:間
受講生:先生・・・?
0:暗転
0:直後、講師がスポットライトで照らされて以下の文章を最大の憎しみを込めて読む。
講師:生の生ネメス、赤ネメスに食べられ、寝ます
講師:うきもに小エビの生ネメス、飲みます
講師:柿メス、栗オス、生ネメス
講師:鳥メス、もすもす、生コスモ
講師:ナメクジネメスとノストラダムス
講師:那須高原(なすこうげん)、地割れから大きなネメスと小さなネメスが伸びます
講師:飲みます、寝ます、生ネメス
0:にやりと笑う講師
0:直後、まばゆい光と共に世界は終焉を迎える。
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