鹿子と千裕のおままごと [0:2:0]
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0:公園。二人の子供が遊んでいる
鹿子:次なにするー
千裕:なにするなにするー
鹿子:おにごっこするー?
千裕:おにごっこ最初やったじゃん
鹿子:そっか、じゃあなにするー
千裕:なにするー
鹿子:なにするなにするー
千裕:おにごっこ!
鹿子:(大声で)いーーねぇーーー!
千裕:最初やったじゃん
鹿子:そっか
千裕:ばか
鹿子:あー!ばかっていった方がばかなんだよー!
千裕:あーあー、でも鹿子(しかこ)もバカっていったから、しかこちゃんもばかー
鹿子:うるさい!ばーかばーか
千裕:ばーか!のろま!燃えない生ごみ!
鹿子:やめてよ
千裕:天然パーマ!歯並びガタガタ!ほうれんそうのおひたし!
鹿子:・・・
千裕:金色夜叉!心の闇!青葡萄(アオブドウ)!
鹿子:(突発的に泣く)わーあああああああん!やーめーてーよー!
千裕:あっ
鹿子:あーああああああん!後半尾崎紅葉(おざきこうよう)の作品名なのやーめーてーよー!
千裕:ごめんね?
鹿子:・・・いいよ
0:間。鹿子は涙を拭う。
千裕:じゃあ・・・なにする?
鹿子:(けろっとして)なにするなにする!
千裕:おままごと!
鹿子:(大声で)いーーねぇーーー!
千裕:やろ!おままごと!
鹿子:やろ!わたしおかーさん!
千裕:じゃあわたしもおかーさん!
鹿子:じゃー・・・はじめ!
0:おままごとが始まる
鹿子:最近どうなのよ
千裕:どうって何が?
鹿子:松本さんよ、お隣さんでしょ?
千裕:ああ、松本さん、相変わらずよ
鹿子:声聞こえる?
千裕:ええ、毎晩
鹿子:あらそー・・・タケシくん相当やんちゃだもんねー
鹿子:昔はいい子だったのに
千裕:ま、今もちゃんと話せばいい子だけどね
鹿子:松本さんと仲いいの?
千裕:うん、うちの子が幼馴染だから
鹿子:そっか、そうよね、家近いものね
千裕:そうそう。まあなんていうんだろ、ちょーっと損してるわよね、彼
鹿子:まーでもいろいろ問題起こしてるしね、うちの子も怖がってるわ(笑)
千裕:どんな大人になるのかね
鹿子:うーん・・・あ、そういえばさ、この前行ってた夫の親戚から、わいわいランドのチケットもらったのよ
千裕:えーいいなあー!
鹿子:それもね、4枚
千裕:あら、それはもしかして・・・
鹿子:行っちゃう?
千裕:・・・行っちゃうっ
鹿子:そしたら週末よね、来週末とか?
千裕:あ、来週末だめ、うちの子皮膚科の日だわ
鹿子:日曜日は?
千裕:私が病院
鹿子:じゃあ、その次の週
千裕:おっけー、旦那に言っとく
鹿子:楽しみましょうね
千裕:ええ、育児のストレス。
千裕:はっ・・・・・・さんっ
鹿子:あはは、じゃあまた日程近づいたら連絡するわー
千裕:よろしくー!
0:間
鹿子:・・・おままごとってこういうんだっけ
千裕:うん、たぶんちがう
鹿子:だよね、なにがちがった?
千裕:配役
鹿子:はいやく?
千裕:うん、たぶん、たぶんだけどね、ふたりお母さんやるとさっきの感じになる
鹿子:なるほど・・・三人必要?
千裕:いや、お母さんがダブると多分あの感じが出ちゃう
鹿子:そっかぁ
千裕:別々の役をやったら大丈夫
鹿子:別々の役!
千裕:そう、別々の役
鹿子:じゃあわたしお母さん!
千裕:あ!ずるい!私もお母さん!
鹿子:じゃー・・・はじめ!
0:間。ままごとが始まる
鹿子:はぁ・・・
0:ままごとがすぐに終わる
千裕:ほら
鹿子:え?
千裕:だめ、やっぱお母さん二人だと哀愁でる
鹿子:あいしゅう?
千裕:うん、子育てによる貫禄
鹿子:だめかぁ
千裕:てか鹿子ずるい!なんでいっつも先選ぶの!
鹿子:ごめん、じゃあちーちゃん先選んでいいよ
千裕:うん、ありがと
鹿子:いいよ、親友でしょ
千裕:う、うん
千裕:・・・じゃあわたしお母さん!
鹿子:あ!わたしも!
千裕:鹿子
鹿子:ん?
千裕:学習して。にんげんは考えるあしであるっていうでしょ。
鹿子:なにそれ
千裕:足で考えるのよ。頭じゃなくて足でさ。
鹿子:なるほど・・・かっけー・・・
千裕:わたしお母さん、鹿子は?
鹿子:おか・・・
千裕:鹿子
鹿子:ると、けんきゅうぶいん
千裕:オカルト研究部員?
鹿子:うん、オカルト研究部員
千裕:・・・やってみようか
鹿子:うん、やろ
千裕:はい・・・じゃあ、はじめっ
0:おままごとが始まる
鹿子:ただいまー
千裕:あら、おかえり鹿子
鹿子:あ、いいにおい、今日のご飯なに?
千裕:チキンカツよ、手洗って食べちゃいなさい
鹿子:はーい
0:間
千裕:・・・あんた何してんの?
鹿子:いやあ、どうせ合成肉だろうなあと思って
千裕:何?
鹿子:お母さん、スーパーで売ってるお肉って、全部合成肉って知ってた?
鹿子:鳥とか豚の肉を細切れにしたのを糊でくっつけて作ってるんだよ
鹿子:純粋な動物の肉だったらいいんだけどさ、まれに間に合わせ程度にそれ以外の肉が入ってる場合もあるらしいよ
千裕:・・・それ以外の肉って?
鹿子:河童の肉とかさ。ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!
鹿子:じゃ、わたしこれから部活だから、ちょっと外出てくるね
千裕:ちょっとあんた、こんな時間からどこにいくのよ!
鹿子:コンゴ共和国に
鹿子:ムケーレムベンベを探しにねっ
0:間。おままごと終わる。
千裕:こわい!
鹿子:こわい!!!
千裕:超こわい!
鹿子:超こわい!!!
千裕:怖いねー
鹿子:うん
千裕:河童の肉も怖かったけど、個人的にはこのオカルト部員がこれらすべての都市伝説を本気で信じてるってことだよね
鹿子:ちょっとの憧れとともにねー
千裕:こあいねー
鹿子:こあいねー
千裕:でもなー、やっぱりちょっと思ってたおままごとと違うんだよなあ
鹿子:どこがー?
千裕:うーん、なんというか・・・キラキラ感がないというか・・・
鹿子:キラキラ感って?
千裕:うまく言えないんだけど・・・なんかこうわくわくする感じ?
鹿子:オカルト部員わくわくしたよ?
千裕:お母さんはヒヤヒヤしたよ
鹿子:なるほどー、みんなわくわくしたいってこと?
千裕:そうだなあ、そういうことなのかなあ
鹿子:おっけー!
千裕:なにおっけーって
鹿子:じゃあ、ちーちゃん引き続きお母さんやって
千裕:わかった
鹿子:わたし二頭身妖精やるから
千裕:ん?
鹿子:じゃー、はじめ!
0:おままごとはじまる
千裕:はーあ、いそがしいいそがしい、あれもやってこれもやって、はあいそがしい!
鹿子:ケヘヘヘヘヘヘヘヘ
千裕:なに!?この声は!
鹿子:下だよ・・・
千裕:下・・・?
鹿子:いや、ちがう、机の裏じゃなくて、もっと下だよ、地面地面
千裕:地面・・・?
千裕:きゃあ!!
鹿子:ケヘヘヘヘ、机の下からこんにちは
千裕:あ、あああ、あ、悪魔ぁ!
鹿子:悪魔とはご挨拶だな、俺ぁ妖精だよ
千裕:よ、妖精?
鹿子:ああ、そうだ、森の妖精ロザリオ、よろしくな
千裕:えっと、はぁ・・・疲れてるのかしらわたし
鹿子:へへへ、無理もねえぜお母さん、いやチヒロさんよ
千裕:えっ、なんで私の名前を
鹿子:俺は妖精だぜ?なんでも知ってるさ
千裕:・・・で、その妖精さんが私になんの用なの?
鹿子:実はな、お前に折り入って頼みがあって来たんだよ
千裕:・・・頼み?
鹿子:ああ、お前さん、魔法少女に興味はないかい?
千裕:えっ
鹿子:知らないか?魔法少女。
鹿子:地球の言葉ではそういうって聞いたんだけどな
千裕:ええと・・・
鹿子:まあ、伝わらねえならいいか、お邪魔したな、マザーチヒロ
千裕:ま、待って!
鹿子:あん?
千裕:わかるわ、魔法少女
鹿子:ああ?なんだよ、わかるなら最初から言えってんだ
千裕:ご、ごめんなさい、ちょっとびっくりしちゃって
鹿子:まあいい、それで、お前さん魔法少女になる気はねえか?
千裕:私が、魔法少女?
鹿子:ああそうだ、俺と契約して魔法少女になってほしいんだ
千裕:・・・でもなんで私が?
鹿子:俺ら妖精はな、悪い魔女と戦ってるんだよ。
千裕:悪い魔女・・・?ウルトラ婆さんみたいな?
鹿子:魔法使いサリー第6話で勉強しないサリーに魔界のパパが派遣したアニメオリジナルキャラクター、ウルトラ婆さんとはまた別だよ
千裕:ああ、そう
鹿子:そうじゃなくて、まあ、わかりやすい言葉で言うと、「あくま」だな
千裕:悪魔・・・
鹿子:そうだ。そして連中は、人間の苦労をエネルギー化したバードンエネルギーで浄化できるんだ。
千裕:へえ
鹿子:そこで、地球上で苦労している女性を探していた時に、お前にひときわ強いバードンエネルギーを感じて、勧誘に来たってわけだな
千裕:なるほど・・・
鹿子:もちろん報酬は弾むぜ、1人悪魔を倒す度にな
千裕:報酬って?
鹿子:・・・お前の願いを一つかなえてやろう。
千裕:そ、そんな都合のいい話ある・・・?
鹿子:いいだろう。最初はサービスだ、ひとつ願いを言ってみろ。
千裕:じゃあ、この世から、夫を消してください!
鹿子:わかった。
鹿子:アストラ、リヒール、プレモウム・・・
千裕:あなたの方が悪魔っぽいけど・・・
鹿子:ドグーマ!
千裕:・・・え?終わり?
鹿子:終わりだ
千裕:あら、メールが来てるわ・・・西方市(にしかたし)地方ニュース速報、さきほど交通事故で・・・
鹿子:どうだ?
千裕:ひどい!こんな!ほんとにこんなことするなんて!
鹿子:信じてもらえたか?
千裕:信じたわ・・・信じたから、夫を生き返らせて!
鹿子:それは、願いかな?
千裕:ええ、願いよ!
鹿子:そうか。それなら俺に協力して、悪魔を倒して、願いをかなえるんだな。
千裕:・・・わかったわ
鹿子:契約・・・成立だな。
0:おままごと終わる
千裕:壮大な物語の予感!!!
鹿子:かっこいい!!
千裕:ラストシーン、主婦の心の葛藤がリアル!
鹿子:日頃のうっぷんからついつい「夫を消して」と頼むけど、いざ夫が居なくなると罪悪感を感じて魔法少女に加担!
千裕:そして始まる魔法少女の冒 険 活 劇
鹿子:おーーー
千裕:かっこいい
鹿子:わくわくした?
千裕:した、衣装とか武器とか想像した
鹿子:衣装!武器!かっこいー
千裕:かっこいーよね
0:間。千裕、黙り込む。
鹿子:・・・ちーちゃんどうしたの?
千裕:これもおままごとじゃない気がする
鹿子:ええー!これもちがうの!
千裕:うん・・・
鹿子:そっかぁーどうすればいいんだろうなあ
千裕:なんかもっとさあ、一般的な暖かい家庭をさあ
鹿子:いっぱんてき?
千裕:うん・・・なんだろうなあ、幸せな家族!みたいな
千裕:サザエさんみたいな
鹿子:ちーちゃん
千裕:ん?
鹿子:もしかして、人が足りないんじゃないの?
千裕:え?
鹿子:いや、その、いっぱんてき?な家庭をやるには・・・
鹿子:お父さん役の男の子もいないし・・・
千裕:・・・たしかに、そっか男の子がいないのか
鹿子:うん、いない
千裕:だからか・・・じゃあおままごとはできないか・・・
鹿子:うん、そうなのかな
0:間。ヒグラシが泣いている。夏の夕暮れ、生ぬるい空気が二人を包む。
千裕:じゃあ・・・だるまさんがころんだしよっか!
鹿子:あ、ごめんちーちゃん
千裕:ん?
鹿子:わたし、今日塾だから、そろそろ帰る
千裕:あ、そう
鹿子:うん、ほんとごめん
千裕:ううん、全然、また明日ね!
鹿子:また明日ダンス!
千裕:また明日ダンス!また明日ダンス!
0:間
千裕:じゃあね
鹿子:うん
0:間。立ち去ろうとする鹿子。
0:と、鹿子が不意に立ち止まって
鹿子:ねえちーちゃん
千裕:ん?どうしたの?
鹿子:たのしかった?おままごと
千裕:うん、めっちゃたのしかった!
鹿子:(ゆっくり笑顔になって)・・・たのしかったよね!!
千裕:またやろうね!
鹿子:うんまたやろ!絶対ね!
千裕:うん!
鹿子:じゃあね!また明日!
千裕:またね!また明日ダンス!
鹿子:うん!じゃあね!
千裕:あ、うん
鹿子:じゃあねー!ちーーちゃーん!
千裕:はーい、ばいばい
0:間。残される千裕。
千裕:(ちいさくつぶやいて)・・・また明日ダンス!
0:間。
千裕:・・・今日晩御飯なんだろ
0:間。
千裕:帰るか
0:暗転
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:完
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