シェフと料理研究家の調理 [0:0:2]
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0:調理台を目の前にして料理研究家とシェフが並んでいる。
料理研究家:こんにちは、本日はトラットリア・レストマーリのオーナーシェフを務めていらっしゃる三ツ星さんにお越しいただいております。
料理研究家:三ツ星さん、よろしくお願いいたします。
シェフ:お願いいたします。
料理研究家:本日は、家庭でも出来るシェフの味を視聴者の方に伝授していただけるということで
シェフ:はい、食材はひと手間加えるだけで全く味が変わりますから、本格イタリアンの味をご家庭でもお試しいただければと思います。
料理研究家:たのしみですね
料理研究家:トラットリア・レストマーリは銀座のお店なんですけど、私も何度かお邪魔したことがあるんです実は
シェフ:ああ、そうだったんですか
料理研究家:かなり長いお店ですよね?
シェフ:ええ、祖父の代から続いていまして、昨年やっと創業50年になりました。
料理研究家:50年!
料理研究家:そんなお店の味が本当に家庭でも再現できちゃうんですか?
シェフ:そうですね、手順さえ同じであれば、おいしいものが出来ると思いますよ
料理研究家:なるほど・・・みなさんしっかり「メモ」ご用意くださいね
料理研究家:それで先生
シェフ:はい
料理研究家:本日は、いったい何を教えていただけるんでしょうか?
シェフ:エビフライ
0:間
料理研究家:え?
シェフ:はい?
料理研究家:あ、いえ
料理研究家:えっと、何を教えていただけるんでしょうか
シェフ:エビフライ
料理研究家:ん・・・?
シェフ:はい?
0:間
料理研究家:なんでタメ語なの?
0:長い間
シェフ:エビフライってタメ語なんですか?
0:間
料理研究家:(咳払いして)ええと
料理研究家:エビフライを教えていただけるんですね
シェフ:そうですね
料理研究家:では、私は三ツ星さんのサポートを出来ればと思いますので、よろしくお願いします
シェフ:よろしくお願いします
料理研究家:ではまず何をするんでしょうか
シェフ:はい、まずエビの背ワタを取ります
料理研究家:なるほど、下ごしらえからですね
シェフ:はい、特にスーパーとかで売っているエビはあまり新鮮ではないので、ワタが少しでも残ってると臭みが残っちゃうんですね
料理研究家:じゃあ、エビ、出しますね
シェフ:はい、お願いします。
シェフ:そして、同時進行でタルタルソースを作っていきます。
料理研究家:はい、こちらエビですね
シェフ:ありがとうございます。
料理研究家:じゃあ私、背ワタ取りますので・・・
料理研究家:えっと(エビを調理しながら)これはもう、ふつうにこんな感じで?
シェフ:あ、それでもいいんですけど、そこに包丁を入れると中のおいしいところが油で揚げた時に逃げてしまうので
料理研究家:へえ、だめなんだこれじゃ
シェフ:ええ(エビを調理しながら)もうこれはほんと、こんなもんで
料理研究家:え、そんなんでいいんですか?
シェフ:はい、あとはもうお水で流すだけで・・・これでOKです
料理研究家:へええ、案外あっさりなんですね
シェフ:そうですね、じゃあ残り、お願いしてもいいですか
料理研究家:はーい、やっておきまーす
シェフ:じゃあその間に、こちらタルタルソースを作りましょう
料理研究家:・・・
シェフ:材料は卵と、玉ねぎ、マヨネーズに、酢、塩コショウ、すこーし砂糖と、これ、なんだかわかります?
料理研究家:・・・
シェフ:・・・久本さん?
料理研究家:・・・
シェフ:あの、久本さん?
料理研究家:ちょ、今話しかけないで
シェフ:ん・・・
料理研究家:背ワタ・・・水・・・
料理研究家:背ワタ・・・背ワタ背ワタ・・・
シェフ:久本さん
料理研究家:ちょ、今ほんと、集中してるから、話しかけないで
シェフ:久本さん
料理研究家:背ワタ・・・背ワタ背ワタ背ワタ背・・・ワタセ?
シェフ:遅い、ちょっと貸して
料理研究家:あ、ちょっと、やめてよ、今わたしがやってたんだから
シェフ:だって遅いんだもん!
料理研究家:いやでもエビの背ワタは私の仕事じゃん
シェフ:じゃあやりながらでいいから話してよ!三ツ星話しかけてるじゃん!
料理研究家:そんなの聞こえないよ!集中してたもん!
シェフ:だからいいよ!もう三ツ星がやっちゃうよ!
料理研究家:三ツ星やんないでよ!久本がやるやつじゃんエビは!
料理研究家:三ツ星はタルタルやってよ!
シェフ:タルタル出来たよもう!
料理研究家:え!
料理研究家:もうタルタル出来たの!?
シェフ:うん、出来てるよ、ほら
0:間
料理研究家:背ワタ、背ワタ、水
シェフ:だから!背ワタもやるって!もう包丁離してよ!
料理研究家:ああー!あーー!危ない!切れる!包丁あぶないって!
シェフ:てかなんで三ツ星の話聞いてくれないのよ!「タルタルソースに隠し味」みたいなくだりやりたかったのに背ワタに夢中じゃん!
料理研究家:だって集中しないと手切るから!
シェフ:じゃあもういいって!三ツ星やっちゃうから!
料理研究家:ああ!わかった!わかったから!ちょっと待って!包丁今置くから!
シェフ:ちょ、包丁振り回さないでって!危ない危ないって!
料理研究家:近づくから危ないんじゃん!こっち来ないでって!
シェフ:エビそっちにあるんだからそっちいかなきゃ調理できないの!
料理研究家:だから包丁置くまで待ってよ!そんなのも待てないの!?
シェフ:わかった!わかったから早くしてよ!エビがダメになるから!
料理研究家:そんなすぐ腐らないでしょ!
料理研究家:・・・はい、置いたよ、包丁
0:間
シェフ:じゃあ背ワタやっちゃうからね・・・
料理研究家:じゃあ私タルタルやる
シェフ:タルタルはもう出来てるからいいの、隠し味も入れたし
料理研究家:隠し味?なにそれ
シェフ:ほら、やっぱり聞いてないじゃん
料理研究家:・・・聞いてたよ
シェフ:え?聞いてたの?
料理研究家:うん、聞いてた
シェフ:・・・じゃあなに?タルタルの隠し味
料理研究家:・・・味噌
シェフ:・・・ぶぶー!そもそも隠し味が何かまだ言ってませんー!
料理研究家:あー!そうやって三ツ星は久本の事馬鹿にして!
シェフ:久本が三ツ星の話聞かないから悪いんでしょ!もういいよ!おとなしくしててよ!三ツ星全部やっちゃうから!
料理研究家:ふん!後から泣きついてきても手伝わないからね!知らない!好きにしてよ!!
0:間
シェフ:よし、よし、よしっと
シェフ:はい、エビの背ワタと、タルタルソースが出来上がりました
0:カメラがタルタルとエビを抜く間。
シェフ:ちょ、なにしてんの?
料理研究家:油あっためておこうと思って
シェフ:まってよ!何もしないでって言ったじゃん!
料理研究家:つまんないじゃん!そりゃいいよ?三ツ星はやることいっぱいあるからおもしろいかもしれないけど久本暇だもん!
シェフ:別に三ツ星だって面白くはないよ!それにまだころもも用意できてないから油はまだ待ってよ!
料理研究家:いいじゃん!先に用意しておいた方がスムーズだって!
シェフ:温度とかいろいろあるんだから先あっためないでって!
料理研究家:温度なんてあとで調整すればいいじゃん!
シェフ:あとで調整するなら今あっためる意味ないって!
シェフ:ん・・・?あれ?
0:間
料理研究家:なに・・・
0:間
シェフ:これなに油・・・?
料理研究家:・・・
シェフ:・・・ごま油?
料理研究家:・・・ごま油
シェフ:なんでごま油使うの!
料理研究家:いいじゃんごま油おいしいじゃん!
シェフ:おいしいけどエビフライはごま油使わないの!
料理研究家:エビフライもごま油使ったらおいしいって!
シェフ:おいしいおいしくないじゃなくてこれはフレンチだからごま油はありえないんだって!
料理研究家:もういいよ!シュウマイ作るから!
シェフ:え!なんでシュウマイ作るの!
料理研究家:冷蔵庫に入ってるの!
シェフ:ちょ、今日はエビフライだからシュウマイやめようって!
料理研究家:いいの!もう今日シュウマイにするの!チンするだけでそっちの方が簡単だし!
シェフ:タルタルソースも作っちゃったよ!
料理研究家:シュウマイにかければいいじゃん!タルタルソース!
シェフ:あわないよ!
料理研究家:わかんないでしょ!やったことあるのタルタルシューマイ!
シェフ:・・・ないけど
料理研究家:ほら、じゃあやってみよ
料理研究家:タルタルシューマイ
シェフ:も、もういいよ!好きにしなよ!
料理研究家:あーわかったね好きにするね、シューマイっと・・・
0:間
シェフ:はい、ということで、タルタルソースの隠し味は、バターでした
シェフ:そしたら、ころも作っていきます
シェフ:えーっと・・・
料理研究家:シュウマイシュウマイ、あれー野菜室かなあ・・・
シェフ:えっと、お店ではイタリアから取り寄せたパンをちぎって使ってるんですけど
シェフ:今日はみなさんご家庭で作っていただくので、普通のこういう、パン粉でいいです
料理研究家:あった!シュウマイ!
シェフ:で、こちら用意してあった粉に、エビをつけて
シェフ:この時氷水でとくと出来上がりがふわっとします
料理研究家:レンジレンジ・・・ん?
シェフ:え?
料理研究家:燃えてる・・・
0:先ほどの油から轟々と火柱が上がっている。
シェフ:うわああああああああああああああ!なんで油の火消さなかったの!
料理研究家:だって!消せっていわなかったじゃん!
シェフ:消せって言わなくても普通消すでしょ普通!
料理研究家:消せって言われなければ消さないよ普通!
シェフ:指示聞かないくせに指示ないと行動できないの!?
料理研究家:三ツ星はエビフライやるんだからそっちで使うのかと思ったの!
シェフ:とりあえず、火消さないと全部燃えちゃうって!
料理研究家:水、水水・・・水!
シェフ:ちょ、油に水入れちゃだめって!
料理研究家:なんで?火を消す時は水でしょ?
シェフ:いや、火を消す時は水だけど、油の時は水じゃないの!
料理研究家:いみわかんない
料理研究家:入れるよ、水
シェフ:ちょっとまって!ちょっと!だめだって!
0:水投入、水蒸気爆発。爆炎がスタジオを取り巻いていく。
料理研究家:うわあああああああああああああああ!
シェフ:どわあああああああああああ!
料理研究家:なんで爆発すんの!ばかじゃないの!
シェフ:馬鹿は久本でしょ!なんで爆発するのわかんないの!
料理研究家:しらないよ!言ってくれたらわかったのに!
シェフ:言ったよ!
料理研究家:言ってないよ!
シェフ:言ったって!
料理研究家:言ってないって!
料理研究家:あつっ
シェフ:やばいってやばいって、全部燃えるって
料理研究家:どうしよう・・・
シェフ:ちょ、とりあえずフタしてフタ
料理研究家:フタ、フタ・・・
シェフ:あーーーー・・・これ!フタ!
料理研究家:フタ、いきまぁーーあぁぁあ!
シェフ:ちょっと!何フライパン倒してるの!火こっち来てるって!
料理研究家:地面がぬるぬるで転んだの!
シェフ:転ばないでよ大事なところで!
料理研究家:もーいちいち文句つけてこないでよ!
料理研究家:あつっ!
シェフ:あちちちち!
料理研究家:次どうするの!
シェフ:どうしようもないよ!もう終わりだよ!
料理研究家:えっ!もう終わりなの!?
シェフ:そうだよ!もうぜーんぶ終わりだよ!
料理研究家:えっと・・・
シェフ:?
料理研究家:トラットリア・レストマーリ、三ツ星シェフによる
料理研究家:ご家庭で簡単エビフライ、いかがでしたでしょうか
料理研究家:皆様もぜひご家庭で・・・
シェフ:そういう終わりじゃないよ!
料理研究家:え!違うの!?
シェフ:エビフライは全然途中だよ!まだ揚げてもないんだから!!
料理研究家:揚がってるよ?
シェフ:(言葉を失って)え・・・?
料理研究家:エビフライ、揚がってるよ?
シェフ:(状況が理解できない、という様子で)・・・え?
0:間。パチパチと燃える音がする。
料理研究家:ということで最後に、ご本人に味見をしていただきたいと思います。
料理研究家:三ツ星シェフ、どうぞー!
0:シェフがエビフライを食べて味わう長い間
シェフ:(世界各地の美食を総集したような甲殻類のコクに)おいしい・・・
0:間
料理研究家:それでは、家庭で出来る絶品料理
料理研究家:来週は「カキフライ」をお届けいたします。
シェフ:(ほのかに香るエビの風味とサクサクのころもに)おいしい・・・
0:拍手にも似たパチパチという音と共にスタジオが猛炎に飲み込まれていく。
0:フェードアウト。
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